シリーズ記事 リメイク版 広島の都市交通歴史年表
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【歴史その2】 75~85年
地下鉄計画挫折後の広島市鉄・軌道系公共交通計画 その1

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画像1 現行アストラムライン(AGT 新交通システム)の路線図(画像 広島市HPより)

 ◇75(昭和50)年
  『
都市モノレール整備の促進に関する法律』に対するインフラ補助制度(新交通システム)に
  AGTが適用される。広島市は、これに着目し、AGT方式(新交通システム)採用による市
  北西部の交通渋滞解消の道を探り始める

 ◇77(昭和52)年
  
都市計画地方審議会にて、祗園新道の都市計画決定にあたって『新交通システムの導入促進
  図ること』との付帯意見を付ける

 ◇78(昭和53)年
  広島市は新交通システムの路線・運行計画、採算性などの調査と祇園新道の用地買収開始
 ◇79(昭和54)年
  新交通システムの都心部ターミナルの調査開始。基町から紙屋町起点に。建設区間が紙屋町~
  高取間11.8kmとなる
 ◇80(昭和55)年
  広島市政令指定都市に昇格。荒木武広島市長90年アジア大会開催構想表明
 ◇84(昭和59)年
  ソウルで行われたアジア・オリンピック評議会で90年北京、94年広島でのアジア大会開催
  が事実上決定する。これにより、新交通システムが市北西部の交通渋滞解消と共に大会メイン
  輸送の役割を担うようになった



画像2 
85(昭和60)年の中国新聞記事 その1(アルベースさんツイッター画像より)


画像3 
85(昭和60)年の中国新聞記事 その2(アルベースさんツイッター画像より)

 
85(昭和60)年
  中国地方交通審議会に対して『広島県における公共交通機関の維持・整備に関する計画つい
  て』を諮問
  都心起点ターミナルを紙屋町から本通に変更(将来の東西方向の鉄軌道線と結節考慮)
   新交通システムの地下区間(1.9㌔)建設をめぐり、運輸省と建設省の所轄権限問題が発生
  第3セクター線地下鉄建設費補助制度創設を提案。しかし、却下される
  荒木広島市長、市
議会建設委員会にて、新交通システム延伸、東西方向の新規路線整備構想を
  表明。構想の詳細は以下の通り


  荒木広島市長(当時)が市議会建設委員会で表明した構想(上記画像2と3参照)
  (1)
新交通システム導入予定区間 
    紙屋町~高取間 11.8㌔ 建設費-1,100億円 94(昭和69)年開通
  (2)東西方向の路線
   【ルート】国鉄(現JR)広島駅-八丁堀-紙屋町-十日市-国鉄西広島駅 約5

        上記ルート以外にも平和大通り、国道2号線の計3案 
   【選定機種】フル規
格サイズの地下鉄、ミニ地下鉄、路面電車の地下化、新交通システムの
         地下線等
を検討
   【建設費】900億円程度 【着工時期】94
(昭和69)年以降
  (3)南北方向の路線
   【ルート】紙屋町-広島港 6.7㌔ 全線地下式 約660億円 
   
【選定機種】新交通システム方式
  (4)他の路線

   【ルート】高取-沼田・石内間 2.9㌔ 建設費160億円
        沼田・石内-西部流通団地(商工センター)8㌔ 建設費 約900億円  
   
【選定機種】新交通システムの高架式
  (5)基本構想の完成時期
   概ね30年後の2015年頃 全体建設費は約3,720億円をそれぞれ見込む
  (6)当面の交通対策
   計画中の紙屋町-高取間が開通する1994(昭和69)年まで、市北西部からの都心部地
   区へ
の流入交通量は、増え続けピーク時で約6,800人分の公共輸送力不足が想定される。
   86
(昭和61)年に県警を含めた、公共交通利用促進協議会を設置。マイカー自粛、ノー
   カーデー、
都心部の通勤車両の乗り入れ規制などを検討。
  (7)新交通システムと他の交通機関の連携
   新交通システムのフィーダーバス路線化や既存のバス路線の併用案を想定。利用者が不便に
   ならないように起点・終点調査を実施。新交通システム開業で生じる余剰人員は、運行する
   第3セクター会社での採用を考える

【ブログ主の所感 その2】
急浮上した新交通システム-AGTについて
当時は最新的な交通機関の触れ込みだったが・・・


画像4 山陽自動車道との交差区間を走行するアストラムライン(画像 リビング広島より)

 新交通システムと聞いてピンとこない方は30代以下の方で、聞いたことがあると朧げに感じる方は40代以上の方だろう。最近はこの言葉での交通システムの定義はないが、70~90年代当時、古い交通システム-バス、路面電車との対義でモノレール、AGTなどを指した。その後、ガイドウェイバスなども加わった。広島市のそれは、AGT-動輪にゴムタイヤを使用した案内軌条式鉄・軌道による中量軌道輸送システムを指してそう呼称した。70年代当時、広島市及び日本の国内都市のみならず先進国では、行き詰った道路交通問題の解決策としてオイルショックなどもあり、公共交通整備の重要性を再認識し始めていた。道路建設は都市交通問題解決の有効手段の一つではあるが、開通まで当方もない時間とコストがかかる。新たな道路が潜在需要を呼び起こし、モーターリゼーションに拍車をかけ、鼬(いたち)ごっこの様相を呈していた。公共交通を整備したほうが効率的であることは一目瞭然だった。同時に問題もあった。フル規格地下鉄は大量輸送機関で、国の整備補助制度を以てしても導入可能な都市は一部の大都市に限られ、都市交通問題を抱える多くの都市では、導入が難しい側面があった。当時の都市交通の概念-都市近距離鉄道・フル規格地下鉄を大量輸送機関と定義すれば、バスや旧式路面電車は少量輸送機関になる。その中間の-中量輸送機関なるものが存在しなかった。そこで、道路交通の渋滞に左右されない新たな中量輸送機関の開発が急がれた。フランスではAGTシステムと類似したVAL(ウィキペディア ミニ地下鉄)と路面式RT。旧西ドイツでは、トラム(路面電車)の欠点を潰し、昇華させたシュタットバーン(地下式LRT 下記動画1参照)である。日本においてはモノレールとAGT(ウィキペディア)があった。AGTシステムの長所と短所を書き立ててみる。

1 
AGTシステムの長所
 
-① 小型軽量車両を用いるため、建設費を抑えることができ曲線半径の小さい曲線でも走行
    が可能
 -② ゴムタイヤを使用するため、走行による外部への騒音振動が少ないほか、乗り心地が向
    上する

 -➂ ②と同様の理由で、高加速・高減速が可能。短い駅間距離でも対応可能
 -④ コンピュータによる無人での全自動運転が可能。労務コストの削減が図れるほか、高頻度
    運転が可能
2 AGTシステムの短所

 -① 高架か地下の完全立体交差となるため、LRTやBRTに比べると建設費が嵩む  
 -② ゴムタイヤの負担過重が鉄車輪と比べて小さく、車両の収容力は普通鉄道より小さい
 -➂ ゴムタイヤの転がり抵抗が鉄車輪と比べて大きく、動力費や摩耗が鉄車輪と比べて早く、
    交換費用による維持費が嵩み維持・管理コストが通常鉄・軌道系よりも嵩む
 -④ 車輪式の普通鉄道との互換性がなく、相互乗り入れや設備・部品等の流動性があまりない
 -⑤ 高架構造物の荷重制限のため定員乗車が規定される

 70年代当時は、AGTシステムの長所は数多くの短所を補って余りあるものとされた。時代が数十年下った今日では、かっての長所は鉄車輪車両の技術の進歩でアドバンテージとして失われ、建設と維持管理の高コスト、他の交通機関との相互交換性のなさなどが仇となり、新ではなく旧交通システムになり下がった。特に⑤などは、需要に応じた弾力的な運行が難しいことは致命的だ。これがあるために、輸送需要が急騰する朝のラッシュ時な頻繁な運行が、求められ余分の車両増備を強いられる。建設の高コストぶりを示す指標としては、1㌔当たりの建設コストはAGT-高架100億円・地下200億円に対し、LRT20億円(路面区間)、BRT5億円と桁違いだ。安価とされるのはフル規格地下鉄建設費との対比でそう論じられるだけだ。都市交通先進国のフランスでは、類似システムのVAL開発当初は、人口30万人規模の都市ではVAL、それ以下の都市ではLRTと想定したが、案に相違して導入はリールトゥールーズレンヌの3都市及びパリ・オルリー空港の4ヵ所にとどまり、コンパクトシティ実現の有力ツールとしてLRTがゴムタイヤ式トラムを含めると28都市にも及んでいる。同じカテゴリーの中量輸送機関としてコストも含め、どちらが優秀なのかは結果が出ている。AGT、VAL共に世界的にはマイナーの存在で、空港タミーミナル内の少量輸送機関としての活用が目立つ。


画像5 
83年開業のフランスの都市-リールのVAL。広島市のアストラムライン同様に、広義ではAGT-ゴムタイヤ式の案内軌条旅客システム-の範疇だが方式が異なる。70~90年代前半まで次世代の軌道系交通の中心と見られていたが、94年のストラスブールのトラム(LRT)導入の大成功でVAL導入予定都市が、こぞって方針転換をした。現在はリール、レンヌ、トゥールーズ、パリ・オルリー空港内など一部にとどまり下火となった(画像 ユーチューブ動画撮影より)

 日本、広島市のAGTに関して言えば、電力消費などの維持コストは定かではないが、鉄車輪車両よりも圧倒的に早い車両更新期を迎えたり、その車両を同様のシステムを採用している都市が少ないので転売出来ないなどの問題が生じている。中量輸送機関の開発に熱心だった国-フランス、旧西ドイツ、アメリカではLRTがそのメニューの中心にいるのに、日本では70年代当時、路面電車もしくはその発展型である路面走行・地下式LRTが入らなかったのか?因みに路面走行式LRTは78年、北米のエドモントンで開業し、地下式LRTことシュタットバーンは66年、旧西ドイツのシュトゥットガルトで産声を上げ、プレメトロとして、ベルギーの首都ブリュッセルでは69年より運行が始まった。  世界の地下鉄一覧~(ドイツの項目参照 種別『L』がシュタットバーン) その理由をまた書き足してみる。

3 70年代日本で中量輸送機関としてLRTが選択肢に入らなかった理由
 -① 旧運輸省(鉄道、地下鉄)と旧建設省(軌道 共に現国土交通省)による許認可権を巡る
    
張り意識が強かったこの時代、軌道系交通である路面電車の地下化は建設省による運輸
    
のテトリー侵害になり、到底容認できなかった(歴史その2の85(昭和60)年参
    照)
 -② 現在のような情報化時代ではなく、都市交通の新たな潮流は極東の島国である日本にはす
    ぐには伝播しなかった。
 -③ 70年代半ばになると一時のような路面電車の廃止の嵐は収まったが、それでも『路面電
    車=時代遅れな乗り物』『地下鉄・モノレール=近代都市の証明』の意識が支配していた
 -④ ➂の理由から、新しいシステムの開発には熱心だったが、旧態然のシステムを改善、改良
    して昇華させる発想が皆無だった。
 -⑤ 当時の鉄・軌道系公共交通整備の国庫補助制度は公営もしくは、第3セクターによる建設
    と運営が大前提で公益性の概念もなく、民間事業者を支援する発想がなかった

だと推察する。『
近からずも遠からず』だろう。これより数十年後の97年、路面電車走行空間改築事業が創設されるまで、LRT整備に関する支援支援制度は日本では皆無だった。広島市が都市交通問題を解決しようと本腰を入れ始めた70年代後半に万が一、旧西ドイツのようなシュタットバーン(地下式LRT)を整備する補助制度があったとしたら、既存の広電のネットワークを活用した合理的かつ効率的な公共交通ネットワークが構築されていたのではなかろうか?前回の所感同様に『たられば』世界の話で恐縮だが、現行のアストラムラインの建設費は1,744億円。この金額にもう少し加えるだけで、広島市の都市規模に見合った公共交通網が出来上がっていたかも知れない。大量輸送機関よりも、中量輸送機関で収まるサイズなので、少し勿体ない気がした。広島市の都市交通問題解決としてAGT方式を採用したことは当時の状況を考えると消去法として正しい。AGT選択の最大のメリットは、建設補助制度があることなのだから。が、理想ではなかったと考える。

 もう一つ、広島市の痛恨と言えることをしでかしている。広島市規模の都市であれば、地下式鉄・軌道系公共交通整備は東西南北の2路線で事足りる。広電の存在があったにせよ、本来であれば公共交通移動の最大需要が発生する路線を、最優先に整備する。福岡市であれば『博多駅~中州~天神』、大阪市なら『梅田(大阪駅)~本町~難波』、名古屋市だと『名古屋駅~伏見~栄』だ。これを広島市で当てはめると『広島駅~八丁堀~紙屋町』である。最優先すべき路線は南北方向の路線ではなく、都市の中枢性向上を鑑みると東西方向一択となる。当時の市北西部の交通渋滞が相当なものだったことはブログ主は安佐南区出身なので承知しているが、福岡市で言えば市営地下鉄空港線よりも同七隈線を先に建設したようなものだ。それでも利用者が見込み通り確保出来れば、問題はなかったが史実はその通りにはならなかった。利用者低迷に悩み、運営する広島高速交通は単年度黒字は達成できず(現在は達成)、債務超過(現在は脱出)に陥り、広島市の支援を受けるに至る(現在も継続中)。それだけが理由ではないが、次期計画推進のブレーキとなった。福岡市並みの政治力を為政者が発揮して、前回記事でも触れたように東西方向の路線を80年代半ばぐらいに開通させ、南北方向の路線はアジア大会開催の94年に何とか間に合わせることは出来たかも知れなかった。全てというわけではないが、広島市の都市計画センスに疑問を感じることが多々ある。当時の荒木市長に広電との利害を調整して、広島百年の大計に立った政治力に求めるのは非常に酷な話だが、広島市の中枢性が他の地方中枢3都市よりも低い内的な要因となったのは事実だ。


動画1 『Stadtbahn Köln』 ドイツ第4の都市ケルンのシュタットバーン。68年から既存トラム(シュトラセバーン)のシュタットバーン化が始まり、現在、路線㌔数196.0㌔、221停留所(駅)、15系統、1日平均利用客66.0万人。路線はLRV規格の低床路線とステップ高の高床路線の2タイプがある ~ケルンLRT~(ウィキペディア)


その3へ続く

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