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今日の話題 3月12日中国新聞25面より引用
全扉降車で『ただ乗り』増
広電昨春導入1日推定150人

【記事概要】

 広島市内を走る広島電鉄の路面電車の一部で、乗務員のいない扉から降車できるサービスに乗じた無賃乗車が増えていることが同社の調査で分かった。乗降をスムーズにするため昨年5月に始めた「全扉降車」方式の車両で起きており、中には意図的な不正もあった。無賃乗車は1日約150人に上るとみられ、広電は対応に苦慮している。



画像1 3月12日中国新聞25面より

【記事詳細】
 1人分の運賃を支払う際だけ、車両中央の無人の扉で降りられる。安全確認と不正監視のため扉付近にカメラ全扉降車方式は、125両・編成のうち『グリーンムーバーレックス』形の低床車16両が対象。『PASPY』などのICカードでを備えており、広電は無作為に抽出した計約6千人分の運賃支払いの有無をビデオ映像で確認した。その結果、無賃乗車の割合は、全扉降車を導入して間もない昨年7月に0.8%だったのが、同11、12月には1.1%に増えた。多いのはICカードを読み取り機にタッチした際、残高不足などでエラー音が鳴ったにもかかわらず立ち去るケース。他の客に紛れ、タッチせずに降りる客も目立った。塩田健順・電車企画部長は『時間がたてば慣れていくはずなのに、2回目調査の方が無賃乗車が多かった。決めつけたくはないが、意図的な不正が増えた可能性がある』と懸念する。居合わせた乗客から広電に不正の目撃情報が寄せられることもあるという。

 広電の当初の構想では、全扉降車方式は導入後1年を目途に他の低床車にも拡大する予定だった。だが、現在は『仮に全車両に広げたとして1%の無賃乗車があれば年間約6千万円の減収になる。有効な対策を打てるまでは拡大は難しい』(塩田部長)と慎重な姿勢に転じている。全扉降車は欧米の路面電車(LRT)では一般的な方式。広電も導入後、乗客の車内での移動が減って転倒事故が少なくなり、乗降がスムーズになるなど、無賃乗車の問題がある一方でメリットも確認している。

 路面電車に関する著書の多い地域公共交通総合研究所(岡山市北区)の服部重敬研究員(64)によると、全扉降車は『信用乗車』方式とも呼ばれる。停車時間を短くできるため、電車のスピードアップを図る上でも鍵になると指摘。『一部の人の無賃乗車のせいで全扉降車をやめ、利便性を後退させるのは得策でない。不慣れな人への案内の工夫や主要電停への改札ゲート設置などの対策を講じた上で、他の車両にも拡大してほしい』と話している。

【考察その1】
所詮は都市交通事業が独立採算の日本では根付かないのか・・・


画像2 『全扉降車』が導入された1000形車両の中間扉付近の乗車専用カードリーダー(右側)と降車専用カードリーダー(左側)の設置状況(画像 アンドビルド広島より)

 全扉降車とは聞きなれない言葉だが、『日本式信用乗車』と解することもできる。『日本式』と前置きが入る理由はおいおい説明したい。今回の件のうんちくを語る前に信用乗車方式について説明する。欧米の公共交通機関では広く普及している制度で、
停留所には改札口が設置されず、誰もが自由に出入りできる。バストラム(路面電車)ワンマン運転でも乗り降りに用いる扉が指定されず、乗客はすべての扉から自由に乗降できるのが一般的となっている。運賃の授受は改札員や運転士、車掌は一切行わず乗客自身の良心に任せる。よって信用乗車(自己改札)と呼ばれる。この制度のメリットは乗降時間の短縮(速達性向上)、駅施設に駅員や車両に車掌を配置する必要がなくなる事(人件費削減)、運転士が運転のみに専念可能となる事。連結運転や長大車両の導入が可能となり、輸送効率が上がる事(生産性向上)などがある。デメリットは、不正乗車の温床となりやすく、運賃収入が減少する可能性がある。導入の契機は、1950~60年代、モーターリゼーションの初期において、廃止の憂き目に遭わず存続させたトラム(路面電車)の生産性向上の観点から、車掌台で運賃を支払うパッセンジャーフロー方式導入され、そのが進化したのがチケットキャンセラー方式(自己改札)である。チケットキャンセラー方式では乗客はあらかじめ停留所などに設置されている券売機で乗車券を購入して乗車し、車内のチケットキャンセラー(乗車券刻印機)に乗車券を差し込んで乗車日時を刻印し、その時に発せられる音で乗車券を所持していることを他の乗客に認知させることで無札を牽制させ相互監視する仕組みが採られた。その後、停留所に設置されたチケットキャンセラーで刻印したり、あらかじめ乗車日時が刻印された乗車券を販売したりすることで車内でのチェックすら省略した無改札方式(信用乗車方式)も一般的になり、広く普及した。同時に不正乗車の増加も予測されたので、罰則の強化も図られ都市により異なるが軒並み通常運賃の20~30倍程度に設定された。肝心の不正乗車率だが、ドイツの諸都市で3~4%、チューリッヒ(端西)で2%、ストラスブール(仏)で12%。国によりまちまちだ。


画像3 横川駅ターミナルに入線中の『グリーンムーバレックス』こと1000形電車。全扉降車対応車両だ(画像 アンドビルド広島より) 

 日本で信用乗車方式が全くと言ってもいいほど導入されなかった理由は、日本の都市交通事業が運賃収入による独立採算制で運営されている点が挙げられる。欧米各国では、モーターリゼーションの進行で営利事業としての都市交通事業は既に役割を終えてり、運営費などを公的資金で賄う受益者負担の行政サービスに様変わりしている。不正乗車については、看過できない問題ではあるがある程度までは許容の範囲であるのに対して、日本のそれは、(不正乗車増加による)運賃収入の減少は会社存続の死活問題となる。信用乗車方式が導入されているアメリカとフランスは運営費の運賃収入カバー率が30%程度。ドイツは、50~60%。日本は、93%である。日本では作業の省力化として自動改札機の導入が大都市中心に進んだが、信用乗車方式は先の事情により全く普及しなかった。ただ、近年交通系ICカードの普及により導入を検討する交通事業者が増えてきた。今回の広電も12年頃から社会実験を行い、前社長解任後には一旦は白紙としたがその後検討を重ね、交通系ICカードの普及率が80%を超えたのを見計らい昨年5月から、100%超低床車両の1000形車両限定に部分導入(全扉降車)を始めた。この方式を『日本式信用乗車』としたのは、全扉利用が降車に限っているからだ。乗車に関しては従来のままで語弊はあるが信用乗車もどきとも言える。ただ、古くて新しい課題の一つだった信用乗車方式採用の広電の英断は、地方中小事業者であることを思えば評価に値するものだった。しかし、今回の1日推計150人の不正乗車発覚は、本格導入に暗い影を落としたばかりか、導入検討の他の事業者に二の足を踏ませる可能性がある。同時に地方中小交通事業者である広電では対応能力にも限界があり、行政による何らかの救済の必要性を感じる次第だ。

【考察その2】
今後の対策を考えてみる


画像4 広電のグループ全体の17年度の損益計算書(画像 公式HPより)

 新聞報道だと、不正乗車率は1.1%との事。記事では全車両で対応した場合、塩田健順・電車企画部長の話では、年間6千万円の損失と語っているが、ブログ主の計算では広電の鉄・軌道線の1日平均利用者数は約15万人。この不正乗車率をそのまま当てはめると1日平均約1,650人。1人当りの運賃最低ライン180円と仮定した場合、1日で29万7千円。年間1憶840万円の損失になる。17年度の鉄・軌道事業の営業収益は約68億円で、不正乗車によるロス率は約1.6%。これを信用乗車方式採用の必要経費と捉えるか、大きな損失と捉えるのか?判断は難しい。必要経費と割り切れない理由として17年度、鉄・軌道系事業が2億2,700万円の赤字を計上していることがある。この数字に不正乗車分が加算されることを考えると関係者も頭を痛めるだろう。大幅な黒字でも出していれば、1.1%の不正乗車率などものは考えようで信用乗車方式の本場の欧米各国よりも低い。メリットとデメリットを天秤にかければメリットの重きを置くことも可能だろうが、やはり背に腹は代えられない。このままでは当初の構想の1年以内の100%超低床車両の全扉降車方式の採用など、夢物語に終わる可能性が高い。下手をすれば、一種の拭い難いトラウマとなり現行車両でも廃止。その後議論すらされない最悪の事態も十分あり得る。広電市内軌道線のLRTへの昇華の道も閉ざされるかも知れない。塩田部長の『有効な対策を打てるまでは拡大は難しい』としているのも、広電規模の会社では責められない。ここで今後の対応策らしきものを考えたい。



画像5 トルコのイスタンブールのLRT停留所の備え付けられている簡易式の自動改札機

対応策その1 不正乗車への罰則強化
 欧州各国で不正乗車に対しての罰則金が、通常運賃の約20~30倍であることは触れた。日本のそれは、鉄道運輸規程第19条と軌道運輸規程第8条に基づいて事業者が不正乗車した人に対して2倍の割増運賃を請求することが認められており、各鉄道事業者も同規定に基づいた約款を定めている。さらに鉄道における不正乗車に対しては鉄道営業法第29条に基づき2万円以下の罰金、または科料という罰則が設けられており、悪質な不正乗車を働いた者に対しては、同規定に基づいて書類送検、逮捕することも可能となっている。要は、通常運賃の3倍程度だ。この罰則金が不正乗車に対しての抑制効果が果たしてあるのか?である。欧米各国並みの20~30倍までの引き上げが理想ではあるが、あくまでもある程度の抑制効果があるというだけで、完全撲滅に至っていない現実にも目を向けるべきだろう。ドイツの諸都市で3~4%、チューリッヒ(端西)で2%、ストラスブール(仏)で12%という不正乗車率だが、ドイツは信用乗車方式が採用され始めた60年代は0.5%、80年代頃には1.5%、近年では3~4%と上昇している。一部には移民問題と無縁ではないとか、罰則金強化だけが不正乗車抑制にはつながらないなどの指摘もある。信用乗車自体、日本の都市交通事業では選択されているとは言えない中、法改正は時期早尚というか機運が醸成されていない。では、法改正は無理だとしても市の条例制定ではどうだろうか? 困ったことに広電は広島市と廿日市市にまたがり事業を営んでいる。その点を無視しても、一民間企業の営利事業に対して、市の条例制定の話になると必ず各方面から強い反対が出る筈。『一民間企業の利益保護の条例制定など言語道断』と強い口調かつ、真顔で反対する方々が絶対に出てくる。官民関係なく公共交通は重要な都市インフラであり、社会全体の公益財の一つといった意識が醸成されない限り、現実には難しい。これは広島人を含めた日本人全体の意識の問題だ。

対応策その2 不正乗車撲滅キャンペーンの実施

 これが一番現実かつ無難な対応策になる。具体的には、全扉降車対応車両-1000形車両-や利用者が多い紙屋町西・東電停や広島駅電停などに注意喚起のポスター貼り、全車両の車内などで注意喚起のアナウンスを行う。『不正乗車を見かけた方は、ご一報ください』などの文言も加える。衆人環視の状況下であることを殊更大きく強調する。受け取り方では遠回しの恐喝にも映らなくはないが、それも致し方なしだと考える。『不正乗車Gメン乗車中』などの貼り紙もそれなり効果がありそうだ。あまり強硬にやり過ぎると、利用者離れを促す逆効果になるので注意したいところだ。

対応策その3 不正乗車Gメンの採用
 欧米各国では広く採用されており、抜き打ちの検察を行う。全車両に不正乗車Gメンを配置するのではなく、ビデオ映像から不正乗車が多い時間帯などを割り出して、その時間帯に対応車両に私服姿で同乗する。簡易式の乗車記録を読み取るカードリーダーを持参して、乗客数人にランダムに抜き打ち検札を行う。残高不足や乗車記録がない乗客に対し、言葉丁寧に事実を指摘する。決して犯罪者扱いにはしない。人員については、ワンマン化で浮いた人員を配置すればいいだろう。


画像5 2010年頃、鉄道総研で広電協力の元、行われていた車載改札機の実験(画像 鉄道総研HPより)

4 車載改札機の実用化
 利用者が多い停留所-紙屋町西・東、八丁堀電停などの自動改札機導入も案としては悪くない。実際、実質日本初のLRT新規開業となる宇都宮LRTでは一部電停で採用される予定だ。既存路面電車の域を超えていない広電の場合、停留所幅の問題が大ネックになりそうだ。利用者が多い一部電停を、乗降別として現在の2線2面式を改め、2線3面式として上下軌道の間に降車専用ホームを設け乗降別とすれば、よりスムーズな乗降が実現するが、全電停で有数の利用者数を誇る紙屋町西・東電停は紙屋町地下街シャレオの階段があり、出来ない相談だ。ここで思い出したのは車載改札機の開発だ。日本で普及しない信用乗車方式を確立すべく、広電の協力の元、鉄道総合技術研究所主導で2010年頃、実験として行われていた。 ~路面電車の乗降時間を短縮する~(鉄道総合技術研究所HP) リンクでのレポートでは100%超低床車両については、上記画像5左側のドアバー付き車載改札機が適しているとの結論に至っている。実用化に当たってのさらなる精査が必要な段階なのは確実で、レポートを見る限りではその印象が強い。この方式だと不正乗車のリスクがかなり低減しそうだ。ネット検索をしたが、10年頃までの情報は得られるがそれ以降のことは、殆どない。その後の経過を知りたいところだ。ドアバーの存在だけでも、不正乗車の抑制効果があると思うのはブログ主だけだろうか?

 4つの対応策について検証したが、不正乗車撲滅キャンペーンと不正乗車Gメンが短期的には有効だろう。中・長期的には車載改札機の開発状況を見極め、ドア幅に余裕がある新型車両への設置が有効だと思われる。設置コストの問題が浮上するが、事業者だけのコスト負担にするのではなくインフラ外国庫補助の対象として100%超低床車両の導入同様に1/3程度の補助を行う。さすれば、全扉降車だけではなく、全扉乗車も可能になり真の信用乗車方式が実現する。下記画像6は広電市内軌道線の運行時間の内訳だ。現行の同線の旅行速度9.0~9.5km/hを、市内線バス並みの13~14km/h、LRT並みの17~25km/h程度にするには運転時間、乗降時間、信号待ち時間の大幅短縮と障害時間の削減が欠かせない。それぞれの時間に短縮な有効な施策を書き連ねてみる。


画像6 広島電鉄市内軌道線の運行時間の構成比(画像 広島市HPより)

①運転時間短縮の施策
 ・軌道法運転規則
第53条-最高速度40km/h制限の緩和
 ・PTPS(公共車両優先システム)の設置拡大
 ・路面軌道の準専用化-簡易式のセンターリザベーション化、軌道のかさ上げなど 
 ・障害時間(軌道内渋滞)の削減(後述) ・都心部地区の一定の自動車乗り入れ制限など
 ・停留所の統廃合(削減)
②乗降時間短縮の施策
 ・100%超低床車両の導入促進 
・信用乗車方式の拡大 ・高規格停留所の拡大
⓷信号待ち時間短縮の施策
 
・PTPS(公共車両優先システム)の設置拡大 ・沿線道路の自動車利用削減
④障害時間(軌道内渋滞)短縮の施策
 ・他都市譲渡老朽車両の運用廃止 
 ・利用実態に即した系統と運行本数の設定

 旧態然とした路面電車からLRTへの昇華のメニューは既に議論の余地がないほど出尽くしているが、事業者個々で対応可能なものは精々、信用乗車方式の採用と利用実態に即した形容と運行本数の設定くらいだ。残りは全て県警と行政との応相談となり、待ちの姿勢に徹するしかない。見方を少し変えれば広電市内軌道線の遅過ぎる旅行速度はそれだけの走行環境しか提供できない行政サイドの怠慢と言えなくもない。道路管理を含めた都市交通行政の在り方の問題だからだ。と一方的に責めても公共交通優先は理解しながらも、一方だけに重きを置けない県警の立場や財政難の行政、一定の事業者負担が難しい事業者などの事情を鑑みれば広電を含めた路面公共交通(路面電車、バス)の高度化なり疑似LRT・BRT化は遅々として進まないのは致し方がない。そうした状況下で広電市内軌道線の全扉降車での日本式信用乗車方式の導入はブログ主は高く評価していた。広電担当者の話だと今回の不正乗車率(1.1%)を全運用車両(125編成)に適用すると年間
6千万円、ブログ主の試算だと年間1憶840万円の損失だ。確かに鉄・軌道系事業で赤字を出している広電においては相当の痛手には違いないが、発想の転換も必要ではなかろうか?長大編成車両でワンマン化が実現すれば、車掌の人件費が浮く彼らの年収が500万円としても12人でペイ出来る。現在広電では、車掌乗車の車両が58編成あり、500万円×58=2.9億円になる。全ての人員をカットするわけにはいかないが、採用を抑えるなどして雇用調整すれば事足りる。不幸中の幸いで不正乗車率は海外に比べ低い。損失ばかりに目を向けるのではなく、その損失を出すことで得られる対価-人件費の抑制、乗降時間の短縮-に重きを置いて必要経費のうちと割り切るのと同時に対応出来得る限りの対策を打ち出し今後の拡大の反面教師にしてほしい。ようやく動き始めたLRT昇華への流れをこの段階で、堰き止めることはするべきではないだろう。


画像7 紙屋町交差点を右折する1000形車両(画像 アンドビルド広島より)

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今日の話題 3月12日中国新聞25面より引用
全扉降車で『ただ乗り』増 
電昨春導入1日推定150人

【記事概要】

 広島市内を走る広島電鉄の路面電車の一部で、乗務員のいない扉から降車できるサービスに乗じた無賃乗車が増えていることが同社の調査で分かった。乗降をスムーズにするため昨年5月に始めた「全扉降車」方式の車両で起きており、中には意図的な不正もあった。無賃乗車は1日約150人に上るとみられ、広電は対応に苦慮している。



画像1 3月12日中国新聞25面より引用

【記事詳細】

 広島市内を走る広島電鉄の路面電車の一部で、乗務員のいない扉から降車できるサービスに乗じた無賃乗車が増えていることが同社の調査で分かった。乗降をスムーズにするため昨年5月に始めた『全扉降車』方式の車両で起きており、中には意図的な不正もあった。無賃乗車は1日約150人に上るとみられ、広電は対応に苦慮している。全扉降車方式は、125両・編成のうち『グリーンムーバーレックス』形の低床車16両が対象。『PASPY』などのICカードで1人分の運賃を支払う際だけ、車両中央の無人の扉で降りられる。安全確認と不正監視のため扉付近にカメラを備えており、広電は無作為に抽出した計約6千人分の運賃支払いの有無をビデオ映像で確認した。

 その結果、無賃乗車の割合は、全扉降車を導入して間もない昨年7月に0.8%だったのが、同11、12月には1.1%に増えた。多いのはICカードを読み取り機にタッチした際、残高不足などでエラー音が鳴ったにもかかわらず立ち去るケース。他の客に紛れ、タッチせずに降りる客も目立った。塩田健順・電車企画部長は『時間がたてば慣れていくはずなのに、2回目調査の方が無賃乗車が多かった。決めつけたくはないが、意図的な不正が増えた可能性がある』と懸念する。居合わせた乗客から広電に不正の目撃情報が寄せられることもあるという。広電の当初の構想では、全扉降車方式は導入後1年をめどに他の低床車にも拡大する予定だった。だが、現在は『仮に全車両に広げたとして1%の無賃乗車があれば年間約6千万円の減収になる。有効な対策を打てるまでは拡大は難しい』(塩田部長)と慎重な姿勢に転じている。


 全扉降車は欧米の路面電車(LRT)では一般的な方式。広電も導入後、乗客の車内での移動が減って転倒事故が少なくなり、乗降がスムーズになるなど、無賃乗車の問題がある一方でメリットも確認している。路面電車に関する著書の多い地域公共交通総合研究所(岡山市北区)の服部重敬研究員(64)によると、全扉降車は『信用乗車』方式とも呼ばれる。停車時間を短くできるため、電車のスピードアップを図る上でも鍵になると指摘。『一部の人の無賃乗車のせいで全扉降車をやめ、利便性を後退させるのは得策でない。不慣れな人への案内の工夫や主要電停への改札ゲート設置などの対策を講じた上で、他の車両にも拡大してほしい』と話している。

【考察その1】