交通需要マネジメント(TDM)について 

【考察その8】
広島市が取るべき交通需要マネジメント(TDM)について


画像1 1987年と2008年の広島市内移動に係る移動手段の各分担率(画像 広島市HPより)

広島市版新交通需要マネジメント(TDM)の推進

1)目標-移動手段の自動車分担率を10%程度削減(47.6%⇒38.0%に)
 08年の徒歩19.0%、二輪車17.1%、公共交通16.0%、自動車47.6%を、25年頃には、徒歩22.0%(+3.0%)、二輪車21.1%(+4.0%)、公共交通18.6%(+2.6%)、自動車38.0%(-9.6%)にする。

2)自動車分担率を下げる政策一覧

 -①PTPS(公共車両優先システム)の設置(公共交通の速達性向上)
   都心部地区及び、デルタ内地区、郊外基幹バス路線などの主要幹線道路の沿道と交差点に
   PTPS(公共車両優先システム)を設置。朝などの混雑時の一般国道-28.6km/
   h、主要地方道28.2km/hの旅行速度を5~6km/h程度下げ、逆に路面電車や
   バスの旅行速度は、3~5km/h程度向上させ、速達性のアドバンテージを確立させる
   。デルタ外からデルタ内に流入する境界線となる交差点、庚午橋、旭橋、新己斐橋、祇園
   大橋、祇園新橋、仁保橋、東雲ICなどの主要交差点は、簡単な流入制限-AM7~9時
   、PM17~19時-を実施、日中は物流機能の障害となるので行わない。設置の目安と
   しては道路の種別関係なく、都心部地区の主要幹線道路-カバー率100%、デルタ内地
   区-70~80%程度、デルタ外地区-50%前後、として市域全体で40%程度のカバ
   ー率を目指す



画像2 『広島市自転車都市づくり推進計画』で示された自転車道ネットワーク図。青色-車道混在(約34㌔)、赤色-自転車専用通行帯(約16㌔)、緑色-歩道内での物理的分離(約4㌔) 画像 広島市HPより

 -②自転車走行環境の整備
  自転車道路ネットワーク(60~70㌔)の整備。道路状況に促した整備手法を選択する
  (上記画像2参照)。都心部地区とデルタ内地区の利用用途に応じた駐輪場
附置義務
  の設定。民間駐輪場建設の補助制度新設。平和大通り沿道の市営駐車場の市営駐輪場へ
  転換。
 -➂時差出勤の推進
  社員の自動車通勤比率が高い事業所に、就業時間の変更や勤務ローテーションの変更を働
  きかける。参加事業者で計画目標達成した場合、翌年度の法人市民税の一部を減免する

 -④パーク&ライドの推進
  緑井地区、新井口地区、楽々園地区、府中町地区の郊外大型商業施設の駐車場を平日に限
  り、パーク&ライド専用駐車場として開放する。
 -⑤日本版運輸連合の検討
  都市圏内で運営する都市交通事業者各社を運輸連合という大きな器に集め、あたかも一つ
  の事業者が運営している都市交通システムかの空気感を醸成する。運賃の一元化や、ゾー
  ン運賃制(下記画像3参照)の採用で、自動車利用から公共交通利用への転換を果たす



画像3 ゾーン運賃制度のイメージ図(画像 広島市HPより)

 少しだけ補足説明をしたい。『1)目標-移動手段の自動車分担率を10%程度削減』だが、1987年当時の水準に戻すことを目標とした。理想的なのは、都市構造自体が公共交通移動を自然発生させるような形だが、ここまで拡散都市化が進行すると、再集約させるには時間がどうしてもかかる。強制移住など言語道断だし、何らかのインセンティブを与えての誘導になる。ただ、それを待っていたのでは遅いのだ。38%の数値設定については、現実的なものと心得る。かつては達成していた数値だし、広島市の既存公共交通インフラの集積度を鑑みると、現状では少し弱いが新規投資ではなく、多少手を加えること-路面電車とバスの疑似LRT&BRT化-により対応可能な範疇だ。よく参考事例で紹介するドイツの都市を持ち出すと、広島市同様に地下式鉄・軌道公共交通機関がないブレーメン-人口56.8万人(日本の80~100万都市に相当)、フライブルグ-人口22.9万人(日本の人口50万都市に相当)の自動車分担率は、40~41%で、地方都市、人口規模を考えると総じて低い。日本だと3大都市圏に所属しない人口50~80万人都市の自動車分担率は、60~70%台である。この比較で、地方都市におけるドイツのコンパクトシティ建設で、いかにモーターリゼーションを抑え込んでいるかが窺える。個別の政策に目を移すと、『①PTPS(公共車両優先システム)』は、賛否の賛が圧倒的に少ないことは承知の上、提案した。前回記事のチューリッヒが究極の目標だが、路面電車やバスの旅行速度向上の効果も期待したいところだが、それ以上にデルタ内外の境界線の交差点に設置して、実質的な自動車の流入制限をかけるのが、主な目的だ。広島市の道路交通の問題として、都心部及びデルタ地区に流入する通過交通がある。複数の環状道路整備、主要幹線道路のBP整備にて排除するるのが理想ではあるが、予算を集中投資しても開通まで数十年かかる。このような容量拡大策も経済インフラの観点では、必要施策に違いないが永遠のイタチごっこに陥る可能性も高いので集約都市建設に資するもの以外は、優先順位は低い。県警の中央管理センターにて私的交通でしかない自動車の旅行速度を意図して落とし、逆に公共交通に道路走行の優先権を与え旅行速度を意図して上げれば、自動車利用者の公共交通への転移もそう難しい話ではないと考える。


画像4 日本の都市の自転車利用分担率(画像 国土交通省HPより)

 『
②自転車走行環境の整備』についても異論がある方も多いと思う。中高年層の一定割合で『自転車=経済弱者の移動手段』と古い認識があるからだ。高度・安定成長期はそうした考えがあったのは事実だが、世界の都市交通の潮流を見るとその考えは過去のものでしかない。環境問題への意識の高騰から自転車交通の在り方が見直され、都市交通におけるポジションは、LRT&BRT同様に、短・中距離移動手段の一つと位置づけられている。北欧のデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、オランダやドイツは自転車活用の先頭グループの国々で、他の欧州諸国と共に日本もセカンドグループ内に属している。自転車移動の目安は国土交通省の調査だと5㌔程度で、『デルタ内地区~都心部地区』の移動には最適だ。日本の自転車分担率の高さは政策誘導によるものではなく、公共交通網整備の遅れから需要が広がっている。背景はどうであれ、これを活かさない手はない。ただ、受け皿としての自転車はコスト安もあり最適だが、自転車道路や専用信号、駐輪場問題などのインフラ整備はまだまだこれからだ。国策に先んじて、積極的な整備が肝要と考える。自転車王国のオランダでは、4大都市-アムステルダム、ロッテルダム、デン・ハーグ、ユトレヒトでは、自転車分担率は23~35%と異様に髙く、自動車分担率は22~36%と、互角である。自動車は短・中・長距離移動全ての万能手段だが、短・中移動者の受け皿になる。『⑤日本版運輸連合の検討』は、現行の日本の法環境では、独立禁止法(以下 独禁法)に抵触して実現は困難だ。運輸連合の施策である共通運賃制度の採用や選定機種ごと、事業者ごとの棲み分けなどが、独禁法の主旨である競争原理の排除と判断されるためだ。欧州各国ではドイツ語圏の国々やスペインなどに運輸連合は古くから存在し、フランスなどでは県と市の中間的な組織である都市共同体(ウィキペディア)を設立し、その枠内で共同体内の自治体の公共交通全体の運営を司る都市交通圏域の一元運営の主旨に沿った広域組織を設立をした。日本と欧州諸国の認識の差は、都市交通事業の位置づけがそのまま反映されている。日本が公共交通が生活インフラとして認識されながらも、営利事業とされているのに対し、かの国々では営利事業の都市交通事業は終わっており、利用者負担の行政サービスの一つとなり、整備や、運営維持についても専用財源がある関係上、公的資金が導入されている。ただ日本においても、地方都市の公共交通や金融機関の市場が縮小が現実のものとなり、生活インフラの維持の観点から、見直す動きが出始めている。国土交通省は19年3月、乗合バスなどの利便性向上や活性化の取り組みを促進するため、地域交通分野の独占禁止法の適用について専用の相談窓口を設置した。目的は、経営が悪化している乗合バスが他社と経営統合、共通乗車券の収入配分調整などによって地域住民の足となる路線を維持することで、内容は運輸連合の施策と一(いつ)にするものだ。現在、政府が乗合バス事業者の経営統合に関して透明なルールの整備が検討されている。国土交通省は現在、公正取引委員会などの関係省庁と連携して、乗合バスなどの地域交通分野における独占禁止法適用の競争政策のあり方について検討を進めるとしており、展開次第では日本版運輸連合の誕生を期待させるものだ。適用範囲にもよるが、今後日本が超縮小社会(超高齢化+大幅人口減)に入るとこの流れが加速するのでは、と予測する。

【考察その9】
シリーズまとめ


画像5 都市の人口密度と自動車交通による1人当りの二酸化炭素排出量(画像 広島市HPより)


画像6 人口密度ごとの行政コストの各比較(画像 国土交通省HPより)

 当ブログ記事をお読みになる方はとある素朴な疑問を抱くに違いない。それは『自動車移動前提の都市ではなぜダメなのか?』である。確かにその通りなのだが、それには数多くの理由がある。よってブログ記事では再三、警鐘を鳴らしている。その理由らしきものをまとめる。

モーターリゼーションに迎合した都市がダメな理由
1)まちづくりの観点からの理由
 -①自動車移動前提の都市は、都市のスプロール現象(ウィキペディア)が顕著でその反動で
   都心部地区の求心力の低下を余儀なくされる
 -②
都心部地区の求心力が弱い都市は、魅力に欠け市域及び都市圏内の『ヒト、モノ、カネ』
   
集まりにくいので中枢性が低くなる。広島市の他の地方中枢3都市-福岡、仙台、札
   幌-よりも低い理由は、立地条件のハンディ(狭間都市圏の悲哀)も大きいが、弱い都
   
心部地区も一因となっている
 -➂
都心部地区の求心力が著しく落ちると、視覚でもにぎわい性の欠如が明らかで都市イメー
   ジを大きく損なう。
 -④外需-都市観光やMICE(マイス)など-取り込みに都市イメージの失墜は大きな痛手
   となる。都市のブランド力がものを言う時代になりつつあり、弱い都心部では都市ブラン
   ドは構築しにくい
 -⑤モーターリゼーションに迎合した都市建設-終わりのない道路建設-では、潜在需要を掘
   
起こす『モーターリゼーション・スパイラル』に陥り、抜け出せなくなる
2)超縮小社会(超高齢化+大幅人口減)観点からの理由
 -①下記画像7と8のように広島市のような地方大都市部でも30年代以降、超縮小社会に
   るのは確実視されており、扶助費(市独自の社会保障費)や医療、介護などのコスト
の上
   昇が避けられない。現状の都市構造のままでは、高額な行政コストも加わり、財政
の悪化
   も避けられない
 -②集約都市構造へ転換しない場合、都市のスプロール化現象で広がった低密度な市街地の過
   疎化が止まらなくなる。ある程度の人口集積が必要な
医療、福祉、各商業施設、公共交通
   の採算が取れず、成立しなくなる。生活困難地域が増える。となると、要らざる活性化策

   
どが必要となる。
 -➂人口密度とハコモノ施設の維持コストとそれを含めた行政コストの
相対関係において(上
   
記画6参照)、人口密度の低い都市の行政の高額コストぶりは明らかで、義務的経費の
   
高騰につながり、財政の硬直化、さらには財政上の活性化余力を失ってしまう
3)その他 
 -①『
モーターリゼーションに迎合した都市建設=低密度市街地の拡散』で、環境に与える負
   荷は決して低くない(上記画像5参照) 
 -②都市のスプロール現象が顕著となると、道路交通渋滞が酷くなる。需要相応の道路整備が
   不可能で多額は経済損失が発生する


画像7(左) 広島市の60年までの人口推移推計
画像8(右) 広島市の60年までの高齢化率推移推計(画像共に広島市HPより)


 取りあえず、思いつくものを並べたが、この主張をするとお決まりの反論として『広島はマツダの本社と工場があるのを忘れるな』である。これを言われるとバカバカしくなり、反論する気が失せる。というのは、市場を潰すような誘導施策を取るべきではないとの意味だろうが、マツダも含め自国及び立地する都市での市場など猫の額にも値しない。国内販売比率が高かった高度・安定成長時代はいざ知らず、世界の市場で戦っている多国籍企業に成長している今日では、そうである。ドイツのシュツットガルトはダイムラーやポルシェ、ミュンヘンはBMW、スウェーデンのヨーテボリはボルボがの本社などがあるが、どの都市もモーターリゼーション迎合した都市など70年代以降標榜しておらず、この頃掲げた公共交通移動中心のコンパクトシティ(当時は概念はなかったが)の路線を継続している。そこには都市の成長管理の概念を強く感じる。それとこれとは別の問題だ。他の記事でもそうだが、『自動車=悪、公共交通=善』との短絡思考は誤りだと考える。自動車がもたらす利便性については、改めて考えると多くのものがあるもの事実だ(伴う経済負担もそれなりだが)。ただ、利用目的や目的地で使い分けるべきだと言いたいだけだ。広島市を含めた日本に限れば、中・高年世代よりも若年者世代中心に貧困率が拡大している。この若年者が高齢者世代になる頃、所得の減少や医療・介護費用の負担増加で自動車の保有が難しくなり、自動車保有台数が減り始めるという逆モーターリゼーション現象も顕著になるかも知れない。そこに人口減少なども加わるので、この数年先がピークで20年代半ばから徐々に右肩下がりとなる。特に未婚の貧困高齢者が増えたら増えたで、別の問題が発生するがこれは記事とは関わりが低いので割愛する。集約都市建設に資する交通需要マネジメント(TDM)と捉えた場合、その本気度が大きく左右するのは言うまでもなく、広島市の覚悟のほどが試されていると考える。

終わり

お手数ですが、ワンクリックお願いします

難病(特定疾患) - 病気ブログ村 
広島(市)情報ブログランキング参加用リンク一覧