カテゴリー記事 広島の都市問題 都心部活性化

【今日の紹介記事】 9月28日中国新聞より引用
『平和研究拠点』構想足踏み 
旧理学部1号館活用
 公表1年10カ月 基本計画示されず

画像1 9月28日ヒロシマ平和メディアセンターより

続く⇒『平和研究拠点』構想足踏み(ヒロシマ平和メディアセンター

【考察その1】
広島大学旧理学部1号館の活用方策の復習


画像2 広島大学本部跡地の理学部1号館。この建物も近い将来、一部を残し刷新される(画像 『アンドビルド広島より』より)

 新型コロナウイルス禍の影響も当然あると思うが、旧理学部1号棟の建物を活用した平和研究拠点構想の基本計画案策定が進んでいないらしい。コロナ禍だけの問題なのか、それとも別の表に出てこない問題があるのかは外から見る分にはよく分からない。広島市が持つ数少ない独自的なもので、他都市との差別化を図る上で不可欠なものと考えるので、急いで欲しいものだ。理由の憶測を始める前に最初は、これまでの構想をまずは振り返りたい。

広島大学旧理学部1号館の活用方策

 Ⅰ 平和に係る教育・研究の導入機能
  1  導入機能の内容
  (1)平和に関する教育機能
   【方向性】
    『ヒロシマ』ならではの視点に十分配慮し、国内及び世界の平和教育の場とする。
    全てのライフステージにわたる平和教育の場とする。

   【機能の内容】
    ア )平和に関する学部教育科目の実施 
イ)平和に関する大学院教育科目の実施
    ウ )市民向け生涯学習、社会人教育(リカレント教育)等の実施

   【留意事項】
    ア)単位互換制度 イ )高校生を対象とする講座 

  (2)平和に関する研究機能
   【方向性】
    『ヒロシマ』ならではの視点に十分配慮し、国内及び世界の平和研究のメッカとなるよ
     うな拠点を形成
   【機能の内容】
     ア )平和に関する研究の実施 イ )客員研究員制度の創設
     ウ )研究・教育資源の収集と整理
   【留意事項】
    客員研究員の受け入れ



画像2 市立広島大学、国立広島大学、広島市3者の連携イメージ(画像 『平和に係る教育・研究の導入機能等についての取りまとめ』より)

 (3)平和交流活動・平和に関する情報発信機能
  【方向性】 
   幅広い世代や研究者間で交流できる場とする。
   高度な広報機能を持たせ、国内外に向けて、研究・教育の成果を広く発信する。広島平和
   記念資料館、国立原爆死没者追悼平和祈念館などとの連携と差別化を図りつつ、ピースツ
   ーリズムの拠点となり、来訪者にとって意義のある展示内容とする。 

  【機能の内容】
   ア)平和をテーマとした幅広い世代間の交流
   イ )平和学研究者の交流と研究成果の発信
   ウ )平和関連資料等の展示

  2  想定される施設・設備、要員
  (1)平和教育 講義室、研修室の整備
   講義室、研修室の整備
  (2)平和研究
   常駐する研究員及び客員研究員の研究スペース

  (3)平和交流活動・平和に関する情報発信機能
   講義室、研修室の整備(再掲)
  (4)資料展示

   図書資料室、被爆資料の展示室・資料庫(温湿度管理を要する)、バックヤード の整備
  (5)施設管理関係
   ア )会議室、事務室の整備  イ)アクセスを確保するための駐車スペース等の整備

  (6)要員
   ア) 施設の管理 イ )研修や公開講座、セミナー等の運営
   ウ) 図書室の運営 エ) 展示・収蔵資料の保存・管理、展示解説用機器の運用
   他、運営主体が必要とする要員


 Ⅱ 運営主体のあり方及び広島地域の大学との連携について
  広島における平和教育・研究の運営主体としての新たな組織のあり方や、広島地域の大学と
  の連携について、検討会で議論された三つの導入機能を発揮する上で必要な事項を以下の通
  りまとめた


 ・ 旧理学部1号館で行う平和教育・研究の運営組織として、広島市立大学及び国立広島大学
  の参画と、広島市の支援により、『ヒロシマ平和教育研究機構(仮 称)』(以下『機構(仮
  称)』という)を設置する。
 ・ 『機構(仮称)』は、広島地域の大学等から幅広い協力を得て、教員や研究者の交流、情報
  共有及び情報発信等の導入機能を発揮する。

 なお、具体的な事業スキームについては、検討会の議論を踏まえ、今後、関係者(広 島市立大学
 、国立広島大学及び広島市)が、協議調整を進める必要があると考える

 これを取りまとめたのは、18年11月と約1年前。それからほとんど進捗していないらしい。見る限りでは、構想ではあるがかなり具体的で3社の密な協力さえれば小異はあれど、大同に就けると思うのだが、そうは簡単には運んでいないらしい。基本計画案となる中心となる2大学との連携の事業スキームの構築の調整が上手くいっていないのかも知れない。2大学間の調整の難航と広島市のリーダーシップが若干欠如している可能性がある。広島市の調整能力の有無に多少の疑念を持っている。広島市のそれと言えば、イメージするのが地元バス事業者との『広島市地域公共交通再編実施計画』の策定だ。重複路線の解消、本数の適正化、運転士不足や経営に影響を与えないように新規需要の発掘などを市主導で進めている。既に第2弾まで策定し実施。第3弾の策定も進められている。市とバス事業者の潤滑な話し合いの土台としてあるのが、将来に対する危機意識だ。この意識の共有が計画の進捗ペースを上げている。しかし、市立広島大学と国立広島大学の連携については、危機感の共有がないのが未だ基本計画案がまとまらな理由だと思ったりする。構想としては俊逸で悪くないと思うので、広島市の唯一無二のストンロングポイントとして長期的視点で育てるつもりで頑張ってほしいものだ。もう一つの可能性として考えられるのは、県が全4棟のうち3棟を所有する旧陸軍被服支廠の動向だ。耐震化費用が免震装置が不要になることが分かり、圧縮される見通しとなった。仮に国の重要文化財にでもされれば、国の国庫補助(65%)も見込める。この辺を冷静に見極めているのではなかろうか?

【考察その2】
旧理学部1号棟についてのブログ主の考え
今さらだが外観全面保存の道がないものか?


画像4 保存活用範囲ごとの耐震概算改修費の比較(画像 『広島大学旧理学部1号館の保存・活用
より)


 旧理学部1号棟は言わずと知れた被爆建物で歴史的価値は非常に高い。この問題で違和感を感じたのは広島市のダブルスタンダードぶりだ。県所有の旧陸軍被服支廠の保存については終始、全棟保存を主張していた。これには大きな違和感を感じずにはいられなかった。『人の振り見て我が振り直せ』は少し異なるが、『我が振り見て人の振りを指摘しろ』と思わず言いたくなった。広島市も旧理学部1号棟という結構な被爆建物を抱えている。規模でいえば、旧陸軍被服支廠に次ぐもので理想を言えば、外観の全面保存が望ましい。しかしそうはいかないのは世の常で、耐震診断では、『地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い』という区分に該当する結果で旧陸軍の被服支廠のように、倒壊の可能性がなければ安価な耐震改修で済むがそうもいかないようだ。よって上記画像4の通り、全体保存で40.6億円、一部保存だと18.5~33.4億円の改修費用が掛かるらしい。実はもう一つあり、象徴保存だ。これは、15.3億円とのことだ。外壁の一部を象徴保存して、 現在の建物の意匠を継承する形で、建物を新築する方法だ。完全新築だと後ろめたさが残り、前建物を彷彿させる風味のデザインにするのである。被爆建物を所有している民間事業者がよく使う手法だ。市の議論を見ると恐らく、約3,500平方㍍の一部保存方式になると予測する。ただ、身を正してから主張してほしいものだ。正直、説得力がない。全体保存が望ましいと分かっていてもそれが出来ないのは市の財政難が背景にあるからだ。ただ財政難だからと言って、その辺の寺院や城郭後よりも歴史的な価値が高い被爆建物を、その時代の都合だけでいとも簡単に破壊していいものだろうか?被爆の生き証人とも言える被爆建物は、被爆者が高齢化し減り続ける中、その姿を原形のままとどめることで被爆の惨状を後世に伝える大きな役割がある。立地も旧陸軍被服支廠は都心地区からかなり外れているが、こちらは都心地区の南端に位置しており、市が進めているピースツーリズムの有力施設としての活用が見込まれる。現在の被爆建物リストは次の通り。被爆建物リスト~(広島市HP) 民間事業者所有のものは、完全な原型保存として残すのはコスト面からも非常に難しい。行政もしくは、行政に準じる組織所有のものに関しては可能な限り、原型保存の道を探るべきだと考える。行政が財政難が理由とは言え、結果的に被爆建物を残さない姿勢を取り続けるのは民間事業者にも『改修費用を補助出来ないのでご自由にどうぞ』と言っているのと変わらない。


画像5 重要文化財『大場家住宅主屋及び表門(世田谷代官屋敷)』の改修工事の各者の負担割合(画像 『重要文化財大場家住宅主屋及び表門(世田谷代官屋敷)の改修工事の着手について』より)

 県が所有する旧陸軍被服支廠もだが、単独自治体で耐震化改修を施し外観保存するのは難しい現実を踏まえ、国の重要文化財指定を被爆建物も目指すべきだ。上記画像5は東京都世田谷区にある重要文化財『大場家住宅主屋及び表門(世田谷代官屋敷)』の改修工事の各者の負担割合だ。各改修費負担割合は国-62.9%、東京都-20.7%、世田谷区-13.7%、民間事業者-2.7%、と全事業費の1億3423万6640円のうち、371万5640円しか負担していない。活用した補助制度は、①国宝・重要文化財建造物保存修理強化対策事業補助金(耐震補強など) ②国宝重要文化財建造物保存修理強化対策事業(公開活用)補助金 ③世田谷区文化財保護事業補助金 である。この事例をそのまま旧理学部1号棟に当てはめてみる。全体保存(外観完全保存)の場合の内訳が耐震・中性化対策工事16.0億円、内外装・設備工事24.6億円。前者が⓵の制度、後者が②の制度補助対象になる。計算すると22.7億円の国庫補助になる。財政難の県の補助は期待できないとして市負担は、17.9億円と当初案よりもかなり軽減される。これは、約3,500平方㍍の一部保存方式の18.5億円よりも安価だ。これすらも負担が難しいのであれば、国際平和文化都市の看板を下ろすべきだ。看板を掲げる資格などない。何に重きを置いて都市問題の解決に取り組むのか、になるが最優先とまではさすがに言わないが優先順位は決して低くないと考える。肝心の国の重要文化財に指定されるか否かだが、旧陸軍被服支廠の認定の有無が、カギを握る。保存問題で国政の問題まで発展した。政権は変わったが、当時の官房長官で安倍政権の継承を謡っている菅政権なので、期待していいかも知れない。ある程度の規模で被爆の生き証人として歴史的価値があり、市民の多くが保存を求めるものに限り、国の重要文化財に指定すべきだろう。規定では、『日本に所在する建造物、美術工芸品、考古資料、歴史資料等の有形文化財のうち、歴史上・芸術上の価値の高いもの、または学術的に価値の高いものとして文化財保護法に基づき日本国政府(文部科学大臣)が指定した文化財を指す』となっている。個人的には十分該当していると思うのだが・・・。勿論、『歴史上の価値の高いもの』にである。内装に関しては、原型保存の旨としながらも、利用用途に応じた改修を施し、平和研究拠点構想に相応しいものとする。何も天を突くような再開発ビルや費用対効果が怪しいハコモノ施設建設だけが、まちづくりではない。自然と緑が上手く調和し、古いものと新しいものが共存し共生することが多様的な都市となり、その都市の魅力づくりにつながる。話が逸れるが、例えばエキニシ地区など確かに南口地区や北口地区に比べ、建物は古く昭和感が漂う。しかし、雰囲気として新宿ゴールデン街や上野アメ横的なものがあり、人気を博している。防災上の管理は必要だが、『古くて汚らしいから建て替えろ』などは単一価値観による暴論だ。あの地区独特のレトロ感が人々を魅了してやまないのだ。現在の旧理学部1号棟は完全放置され、全く手が加わていないので燦燦たる有様だが、元はレンガ造りのレトロ調のものでデザインもよく見ると趣向され素材として悪くない。素材としては一級品だ。その素材を上手く調理して極上のものに仕上げるのは広島人の責任かも知れない。これからもこの問題を追いかけたいと思う。

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