もし広島空港が広島市に残っていればどうなっていた? その1

【考察その3】
広島市は本当に衰退都市なのか?
衰退都市の条件とは?


画像1 政令指定都市の財政健全度指数の比較。広島市は、京都市に次いでワースト2位(画像 『令和4年度当初予算の概要 』より)


画像2 政令指定都市の市民1人当たりの市債残高(画像 『令和4年度当初予算の概要 』より)

  広島空港の話から少し離れる。衰退都市の類型は色々とある。①中規模都市だと都市の雇用と支払う法人税で財政を支えていた基幹産業の衰退-規模縮小と撤退-で、失業者を他の産業の雇用でカバー出来ず、人口の社会大幅減少-転出超過-を引き超すケース ②高速道路、新幹線などの高速交通網の整備で、時間距離が短縮され経済のストロー現象が起きて、関東大都市圏(首都圏)へ多くの若年者を転出させ社会大幅減少となるケース ③何らかの原因で極度の財政難を引き起こし、政策的経費(公共事業)を過度に圧縮せざるを得ない状況となり都市経済力維持が不可能となり社会大幅減少を招くケースなどがあると考える。衰退都市開始のきっかけは何であれ、社会大幅減少-転出超過-が起きている点では共通している。もう1つ共通している点は、ケース③も含め、他の同規模都市と比べ財政が健全とは程遠く、かなり悪化している点だ。③に関して言えば、元々悪化させているのに市勢を回復させるために都市再生と称し、積極財政に一か八かで盲目に突進しその結果失敗、傷口を広げる『木乃伊取りが木乃伊になる』になることが多い。その後、緊縮財政に転ずる。財政難の指標を政令指定都市20市の括りで見れば、広島市は実質公債費負担率ではワースト2位、将来負担率でもワースト2位と結構深刻な状況だ(上記画像1参照)。将来負担率1位の京都市が財政再生団体転落1歩手前までに追い込まれている事を考えると、財布の紐がつい緩むとあっという間に明日が我が身になりかねない。財政難3トップは京都市、広島市、北九州市の3市になる。この3市を記憶して読み進めてもらいたい。財政難を殊更重く見る理由は、一度財政難に陥ると、必要な都市活性化余力を失い市税獲得の機会を失いその結果、さらに財政難を誘引する負のスパイラル曲線にどっぷりと浸かるからだ。一度ハマると、抜け出せなくなる沼状態で半永久的に続く。その期間が長くなると、それが当たり前となり危機感を感じなくなり這い上がる気力も失われる。心が折れて、何も感じなくなるので恐ろしい。このようなネガティブな状況は、都合が悪いものなので当初は報道されないし、問題が出始めた頃は危機意識を共有されない事が多い。その状況を理由をつけて認めない人間も少なくなく、問題の指摘をしても数の論理でかき消されることもある。早い段階で処置を行えば、解決する可能性があるにもかかわらず、それをせずいよいよ問題が深刻となり、誤魔化しが利かなくなり渋々認めるケースもある。



画像3 東京特別区と20政令指定都市の21大都市の
転入超過数(画像 『住民基本台帳人口移動報告2021年結果 』より)


画像4 全国の主要都市の対東京圏の17年の転出超過数(画像 『中枢中核都市の現状について』より)

指標3 総務省の統計による広島市の転入超過数推移(単位:人)
 80年   91年  98年  99年   00年  01年  02年  03年
6,855 -1,680 170 -1,276 -744 -863 -404  -594

 04年  05年  06年  07年  08年  09年  10年  11年   
2,180  364  409  997 1,123 1,152 1,650 1,984


 12年  13年  14年  15年  16年  17年  18年   19年 
1,123 1,152 -528  289  119 -359 -661 -1,220

 20年   21年
-427 -
2,632

指標4 地方中枢四都市の転入超過数の推移(単位:人)
     14年  15年  16年  17年  18年    19年   20年
札幌市 8,609 8,106 9,315 8,952 8,283  9,812 1万,0493
仙台市 2,050 1,140  615 1,399 1,979  1,349  2,990
広島市 -528  289  119  -359 -661  -1,220 -427
福岡市 6,564 7,680 7,287 6,986 6,136  8,191
  7,909

      21年

札幌市  9,711
仙台市  2,288
広島市 -2,632
福岡市  7,158

 上記画像3は、東京特別区と20政令指定都市の21大都市の14年から21年までの人口の社会動態でプラスが転入超過数(人口の社会増加)でマイナスは転出超過数(人口の社会減少)になる。広島市は、17年から4年連続の転出超過数で21年に限れば、20政令指定都市最大数の2,632人を記録した。広島市よりも衰退都市のイメージが定着している北九州市の1,820人を上回っており、中々の水準だ。地方中枢四都市-札(幌)・仙(台)・広(島)・福(岡)-の括りでは唯一の転出超過都市で、まだ人口の自然減少が顕著となっていないにも関わらず、20年10月国勢調査の推計人口120.1万人が22年11月現在は119.1万人と約2年間で1.0万人も減少している。これまで通りの人口の社会減少が続き、今後人口自然減少が本格化すると全体の推計人口の減少幅は予測よりも遥かに速くなるのは確実だ。広島市の人口社会減少(転出超過)を語る場合、反論意見として、①『広島市は東京指向が強いのである程度は仕方がない』 ②『広島市は面積こそ広いが可住地面積が狭いので、近隣の安芸郡府中町や、廿日市市に転出しているので問題ない』がされる。果たして本当にそうなのだろうか?ブログ主はこの反論に異を唱えたい。①については、上記画像4が示す通り、東京指向は何も広島市だけではなく、全国の地方都市共通の現象。広島市の対東京圏の転出超過数は、人口が広島市よりも少ない仙台市や新潟市よりも少ないので、この反論は的外れだ。②も同様で、数少ない転入超過を記録している県内自治体は、府中町754人、東広島市554人、廿日市市174人で、3自治体の合算数を以てしても広島都市圏全体では余裕の転出超過、しかも完全衰退都市の呉市は恐らく1000人以上の転出超過数と思われるので、そう言い切れる。可住地面積だと、広島市293.35平方㌖、福岡市232.59平方㌖、仙台市341.79平方㌖、札幌市438.98平方㌖とそこまで大きなハンディはなく、広島市は福岡市よりも広い。とどめを刺すと旧湯来町と旧五日市町以外、市域面積が同じだった80年は転入超過数が6,855人だった。この反論は見苦しい言い訳に過ぎないだろう。広島市の問題は都市圏外の広島県内、他の中国4県からの転入超過数が少ないことを問題視すべきだ。人口の自然減少は、少子化による『死亡数>出生数』で広島市だけではなく日本全体の問題だが、人口の社会減少は明らかに広島市の問題で衰退都市とするのはこれがあるからだ。転入超過とは、市域外から広島市に転入する人が転出する人よりも少ない事を指す。広島市在住の市民が、進学や新卒就職、転職を機に他所に転居すると言うことは、広島市を見限る人たちが多く、そして広島市に魅力を感じる人たちが少ない事にもなる。去る人間が上回る事が広島市が衰退都市に片足を突っ込んでいる証左になると思うのだ。昭和のある時期までは広島市とライバル関係にあり、平成初頭以降は差を完全につけられた福岡市と比較すると、特にその思いは強くなる次第だ。

【考察その4】
空港機能の充実と共に発展した福岡市
地方最強都市福岡市の最大のストロングポイント


画像5 第2滑走路の工事が進む福岡空港(18年頃) 画像 『西日本新聞WEB版』より


画像6 福岡空港の位置図(画像 『資料1 福岡空港の現状』より)

 福岡市と大きな差がついた理由に空港機能を挙げる人が多い。その考察は今は取りあえず置いておいて、福岡空港についてこの考察では述べたい。福岡市は、多くの地方都市がバブル経済が崩壊した90年代初頭以降、日本の停滞と衰退の余波を受け埋没する中、東アジアの成長を取り込み成長し続け地方最強都市と称されるまでになった。福岡市が成長し続ける理由は色々とある。
①九州の首都的都市として発展するべく立地 ②古くから大陸の玄関口として発展した歴史があり、日本らしくない先進気鋭な土地柄(絶えず都市のイノベーションが起きる) ③現福岡空港の存在 が主なものだ。現在では福岡市はプライメイトシティ-地域の中で最も大きく、規模において2位以下の都市を大きく引き離している都市-だが、その地位にまで上り詰めたのは高度成長期の後半以降で、戦前は熊本市、戦後は3大都市圏以外で初めて政令指定都市となった北九州市の方が、九州の中心都市だった時期もあったくらいだ。熊本市は戦前は国の出先機関が多く立地していたし、北九州市が四大工業地帯と名を馳せていた時代は中央資本の支店は福岡市よりも多く立地していた。しかし、この2市を今では軽く凌駕するほどのプライメイトシティにまで成長し、福岡市を『札(幌)・仙(台)・広(島)・福(岡)』では括れなくなってきた。この地方中枢四都市が高度成長期以降、他の都市よりも成長を果たした大きな理由の1つに支店経済都市の恩恵がある。東京特別区に本社・本店がある上場企業は、交通の利便性が高い都市の支店や営業所を置く傾向が強い。福岡空港は、太平洋戦争後は72年まで米軍との官民共用空空港だったが、それ以降は第二種空港となり国内線だけではなく国際線ターミナルの建設など年を追うごとに施設が充実の一途を辿った。一方の北九州市の北九州空港は滑走路が1500㍍と貧弱で、まちなか空港と言うこともあり、大型ジェット機の離着陸可能な滑走路の延伸が難しく、最大1日6往復12便と運航の制限、欠航率が約25%と異常な高さで75年の山陽新幹線の博多駅延伸で、旧北九州空港利用は大打撃を受け83年には、東京便などの定期便が廃止された。東京からのアクセス性のアドバンテージが福岡市に移り、しかも北九州市の基幹産業だった鉄鋼業が施設の老朽化とエネルギー政策の大転換で高度成長期の半ばから斜陽化したこともあり、支店などが一斉に福岡市に移動した。北九州市も危機感を持ち、71年から代替え空港整備を国に陳情し続けたが、新北九州空港の開港は06年と35年後で取り返しがつかないほど市勢は落ちてしまった。福岡市は九州の支店経済都市の座を空港戦略で北九州市から奪い取った。支店経済と聞くと、中央資本に搾取され続ける植民地みたいなアホなイメージを持つ馬鹿者が一定数居るが、さにあらずで全事業所に占める支店の比率の政令指定都市別ランキングでは、福岡市は第3位で32.1%、北九州市は第15位で13.4%と大きな差がついている。一定の就業者を抱えているので、活発な都市経済に寄与している。福岡空港が高度成長期に果たした役割は果てしなく大きいと言わざるを得ない。


画像7 福岡空港の95~18年度までの年間利用者推移(画像 『福岡空港 滑走路増設事業』より)


画像8 福岡空港第2滑走路新設事業の概要(画像 『福岡空港 滑走路増設事業』より)

 福岡空港は日本一の混雑空港とも言われ、18年度は過去最多の年間利用者2,485万人-国内路線1,793万人、国際路線692万人-(上記画像7参照)を記録している。遅延がなく運用できる目安である滑走路処理容量を超え、混雑時は2分17秒程度毎に離着陸が行われており、滑走路1本あたりの年間離着陸回数は、日本一だ。過去には、新福岡空港の建設も検討されたが、建設費が9,200~9,700億円とべらぼうな高コストで、当面は現空港の第2滑走路の新設案(上記画像8参照)に落ち着いた。運用開始は24年度の予定。事業費は、当初約2,000億円程度としたが、最終的には1,643億円となった。この高い利便性を手放すのは勿体ない。福岡空港は、都心中心地の天神地区からは、市営地下鉄空港線で11分、都市最大駅のJR博多駅からは僅か5分。11年に全線開業した九州新幹線の存在も九州各県の同空港へのアクセスを大幅に向上させた。『都心中心地・MICE地区~都市最大駅~空港』を団子の串のように見事に貫いている地下鉄路線も珍しい。アクセス性では日本一と言える。この4者が隣接する最大メリットは、都市観光やMICE誘致など都市戦略が描きやすい事だ。逆にデメリットは、まちなか空港なので航空法の規制を受けJR博多駅周辺やキャナルシティ博多辺りでは60㍍、天神で110㍍程度、西部副都心シーサイドももちで150㍍程度 の高さビルしか建設出来なくなっている。都心地区やその周辺地区の業務ビルやホテルの容量不足が深刻になりつつあった。しかし、14年に天神交差点から半径500㍍エリア約80㌶を天神ビックバンエリアと位置付け、航空法に基づく制限表面規制の特例承認や市独自の容積率緩和制度の両輪で高さ制限を緩和している。デメリットがほぼ消え、メリットしかないのが福岡空港と言える。しかし、将来的な課題は実は解決していない。24年度に第2滑走路が完成しても、現在の処理能力16.4万回/年が18.8万回/年~21.1万回/年に拡大し、混雑緩和されるだけで運営会社が目標とする48年年間利用者数3,500万人、国内線と国際線合わせて100路線を仮に達成すると、現空港が手狭になるのは目に見えている。新福岡空港建設検討時には、検討の締めとして『十数年後には再び空港容量を突破することが予測される』『市街地に近い現空港が有する様々な課題の解決には新空港が優位性を持っている』と結論付けてり、抜本的な解決にはなってはいない。とは言え、現在の福岡空港がもたらしたものは本当に大きい。福岡空港を見ると、都市の空港機能の重要性を再認識させられる。広島市も失ったものが限りなく大きいが、今さら時計の針を逆さに回すことは出来ない。

『もし広島空港が広島市に残っていればどうなっていた? その3』へ続く

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