2017年04月09日

sakamaki


それぞれの時代を背負った者達の戦いは終わった。

その日、勝利したのは伊藤盛一郎。第三代ZSTフライ級王者である。

「このベルトを狙っている選手、何人かいると思うんですけど、やっぱ判定勝ちしているようじゃまだまだだし、もっと経験積んで、そこから挑んでこいって感じです」

対戦相手であった矢島雄一郎選手への尊敬と感謝。これから先、自分がZSTを引っ張っていくとう決意。伊藤選手は試合後のリング上で、まずはそれらの事を語った。そして一呼吸おき、更にそう言葉を繋げたのだ。

面白い。

直前までと、その言葉が含んでいる熱の質が違う。

「何人かいると思う」とは言った。この時点では対象は複数である。だが、その後に続いた「判定勝ちしているようじゃまだまだ」という言葉で、これが一人の選手に向けられた言葉である事が分かる。たとえばこの日、伊藤選手と同じフライ級の田村淳選手が見事なKO勝利をしている。だが「判定勝ち」という言葉があるため、その言葉が向けられたのは田村選手ではない。

この日、伊藤選手が勝利した矢島選手は、まちがいなく現時点では最強の挑戦者であった。仮に矢島選手以上に強い選手がいるのであれば、その選手とタイトルマッチが組まれていたであろう。最強の挑戦者を退けながら、なおも王者の言葉にこれだけの熱を含ませる男が、このZSTの中にいるのだ。

「あんま、ナメないで欲しいです」

王者が、ここまでの言葉を向ける相手。最後まで、その名前は出てこなかったが、会場にいた多くの観客は、一人の選手の名を思い浮かべていたはずだ。



「こいつ、俺のイチオシの選手だから」

2013年11月。

「ZST.38」の会場で、“べったらの狼(ろう)”こと大村朗選手が、そう言って私に紹介してくれたのが貫井義規選手である。

当時、ZSTは「HIGH SCHOOL WARS」と銘打った試合を行っており、高校生ファイターの発掘に力を注いでいた。そして貫井選手は、その高校生ファイターであった。

「SHERDOG」で見る限り、この時の試合が貫井選手のデビュー戦であったようである。おそらくディファ有明みたいな場所で試合をするのも初めてであったろう。そういう緊張から本来の力が出せなかったのか、或いは第一試合の篠宮敏久選手が、ドローという流れを作ってしまったせいか、貫井選手のこの日の試合はドローという結果に終わっている。

2014年2月。

「ZST.39」で、貫井選手の二度目の試合が行なわれた。大村選手の紹介もあったので、貫井選手の事は憶えていた。そういうわけで注目してはいたのであるが、この試合で貫井選手は敗れてしまった。

貫井選手を破ったのは、同じく高校生の選手であった。



貫井選手との試合の時は、ただ“貫井選手が敗れた試合”として記憶していた。だから貫井選手に勝利した選手の名は記憶していなかった。「SWAT!54」の時の通信では、私はその選手の名前を書いているが、それもあくまでも「PRE STAGE(ZSTのアマチュア大会)」でやっていたトーナメントの決勝戦を、実験的に「SWAT!」興行内で行ったという事が珍しくて書いたものである。つまり、いずれの時においても、まだその選手を主語として見ていたわけではなかったのである。

私が、その選手の名をハッキリと認識したのは、やはり本戦デビューとなった「ZST.43」の試合である。

“BRAVEハート”という異名が付けられたその選手の名は、坂巻魁斗と記されていた。

正直なところ、本戦のカードの中にあるその名前を見たときは「え?誰?」という状態であった。「SWAT!54」の通信を読み返してみると、「両者共にアグレッシブな良い試合」的な事は書いていたので、その時に坂巻選手が勝利して、なおかつ、貫井選手に勝利した高校生ファイターである、というところまで結びついていれば、その場で記憶したかもしれないが、「SWAT!54」では坂巻選手は敗れていた。その後、坂巻選手が所属しているBRAVE GYMが主催する「BRAVE FIGHT」で勝利し、その実績を以って本戦出場の運びとなったようであるが、私も「BRAVE FIGHT」まではチェックしていなかったので、あくまでもこれは“現役高校生の本戦デビュー”という話題性と、その師である宮田和幸という選手のネームバリュー以外の何物でもないと思っていた。

この時、坂巻選手が対戦したのは、大ベテランの澤田健壱選手。ZSTに参戦してからは、それほど目立った結果を出しているわけではないが、この時点で既にプロとして30戦以上のキャリアがある。坂巻選手の事はよく知らないが、さすがに澤田選手がプロの厳しさを見せて勝つだろうと思っていたのは憶えている。しかしこの試合の結末は、本戦デビュー戦の坂巻選手が大ベテランの澤田選手をフロントチョークで絞め落とすという、衝撃的なものとなったのであった。

ここから坂巻選手の快進撃は始まった。

続く「ZST.45」。ここで坂巻選手が相対したのは“スピードスター”上原佑介選手。ムラはあるが強い選手だ。少なくともこの時点では、フライ級のトップグループの中に数えられていた選手だと思う。その上原選手に“三角十字”を仕掛けられる場面もあったが、次の瞬間、逆に“三角十字”を極め返して勝利。前戦の結果が“まぐれ”などではないという事を、改めて証明する一戦となった。更に「ZST.46」では、「SWAT!フライ級トーナメント2013」優勝者である藤澤彰紀選手をヒールホールドで撃破。そして、伊藤選手と矢島選手が戦った、この「ZST.47」では、同じくZSTでは無敗を誇っていた木内崇雅選手との“無敗対決”を判定ながらも制す。これで本戦デビュー以来、坂巻選手は無傷の四連勝。しかも、そのいずれもがイージーな相手と言える選手ではない。

「ZST.45」の上原戦後、既に坂巻選手は年内(2015年)でのベルト挑戦の意思を表明している。その頃から既に、坂巻選手の照準は伊藤選手に向けられていたのだ。それを意識して、冒頭の伊藤選手の「もっと経験積んで、そこから挑んでこい」という言葉に繋がるのである。

時代を賭けた対決を制した若き王者。

無敗同士の対決を制したスーパールーキー。

それぞれ「ZST.47」で、大きな意味を持つ戦いに勝利した者同士。その対決が、その年の最終大会となる11月の「ZST.49〜旗揚げ13周年記念大会〜」で組まれたのは、必然の流れと言えたのかもしれない。

だがそれでも、私の中に「まだ早い!」という気持ちが無かったと言えば嘘になる。

時期尚早なのは、もちろん坂巻選手の方である。

伊藤選手の方は問題ない、というか既に王者になっているのだ。そしてこの戦いまでに、多くの“修羅場”を潜ってきている。SWAT!の頃に渡部修斗選手に敗北を喫し、その苦さを知っている。「VTJ」に参戦し、ZSTの外で戦う厳しさを知っている。八田亮選手と戦い、ベルトを持っている男の強さを知っている。矢島雄一郎選手に勝利し、時代を背負うことの重さを知っている。そう。若いとはいえ伊藤選手は、この時点で既に色々な“修羅場”を知っているのだ。

一方の坂巻選手であるが、ZST本戦初登場以降、「BRAVE FIGHT」を含めて5戦5勝。その内、判定は木内戦の一つだけで、他は全て1R勝利。これは確かに坂巻選手の強さを証明するものではある。だがそれと同時に、私の中では“経験不足”としても映った。イージーと言える相手と戦ってきたワケではない。だが苦戦したとまで言える戦いもない。つまり坂巻魁斗という選手は、まだ“修羅場”的な戦いの経験が少ないのだ。もちろん、それは坂巻選手の責による物ではないし、“苦戦すらしなかった”という意味で、坂巻選手の強さを表現できるものではあったが。

時期尚早であるとはいえ、じゃあ、その年最後の周年記念大会で、王者である伊藤選手の対戦相手に相応しい戦績の選手が他にいたかというと、やはり坂巻選手以外にはいなかった。同様に、“ZSTを背負った若き王者に相対する、更に若い無敗の挑戦者”以上の価値ある構図を、その戦いに付与できる選手が他にいたかというと、やはりそれもいなかったのである。仮に、ここでこのカードが組まれず、これから先、坂巻選手がどこかのタイミングで敗れ“無敗の挑戦者”でなくなってしまえば、それだけでもこの戦いの価値は下がってしまう。やはり、この戦いがこのタイミングで組まれてしまったのは、必然だったのであろう。

しかし、周知の様に、「ZST.49〜旗揚げ13周年記念大会〜」では、この戦いは実現しなかったのである。



大会まで一ヶ月を切った10月末。突然のアクシデントが王者を襲った。

“右鎖骨骨折”。
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スパーリング中の出来事であったそうである。全治4週間。このケガにより、伊藤選手の出場は事実上不可能となった。これにより、「ZST.49」での坂巻選手の出場も消滅するかと思われたが、益田亮選手を相手として、「暫定王者決定戦」としての試合が行われる事となった。

当時の益田選手が、タイトルマッチを戦うに相応しい選手だったかと言うと、それは微妙であったと言わざるをえない。それでも、大会まで3週間あるかないかという準備期間しかないにも関わらず、「大きなチャンスだと思う」と、この試合を受けた益田選手の気持ちの強さは評価されて然るべきであろう。そして益田選手が、まだ坂巻選手がZSTでは対戦経験の少ないストライカータイプであるという事もあり、これが坂巻選手の経験に上乗せされる機会となるのか、それともそれ以上に苦い経験を刻むのかという、幾許かの“勝負論”を持たせる事はできた。

試合は、1R3分35秒。その打撃を苦にせず、坂巻選手が三角絞めで益田選手を絞め落として勝利。

この日、“暫定”という言葉付きながらも坂巻選手は、ZSTフライ級の頂に立った。

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画像:この日、暫定王者となった坂巻選手。



こうして誕生した、もう一つの頂。二人の王者。

しかし“頂”とは、それ以上の場所がないからこそ“頂”と呼ばれるのだ。同じ山に、二つの頂は存在しえないのである。

2016年4月。「ZST.50」。

大きな節目となる数字を戴いたこの大会。

あるべき一つの頂を定めるため、二人の王者は対角線上に立つ。

伊藤―坂巻


zst_fczst_fc at 00:43│コメント(0)トラックバック(0)試合 │

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