January 28, 2007

6-1 Prayer

他人ではなく身内でもない一組の男女が、熱い血にまみれて交接する姿を夢に見た。
安堵と諦観が綯い交ぜとなった二人は、それを決着として受け入れた。
是非もないだろう。


俺は、半ば朽ちた椅子の上で、静かに眼を覚ます。

ぬるい風の吹き抜ける屋上である。
本来ならば三階の位置でありここが廃墟となる以前には更に上階が存在していた事は間違いないが、どこまでの高さの建造物だったのかはわからない。
土台の規模から目算するに精々が五、六階層程度ではないかと思われる。
それらは既に失われて久しい。
眼前の石畳はそこかしこで崩落しており迂闊に歩けば階下へと転落する。
雑草群が己の身に咲いた白い花を天へ捧げようと懸命に躯を伸ばしている。
生憎、曇天だ。
俺以外の誰もここに花のあることを知らない。
席を立つ。

壁の無い南南西の隅で、墓標の如きギルドスタチューが忘れ去られたように佇立している。
それが飛び降り自殺を企んでいる可能性は零ではない。
一瞥を投げ、階段を下りた。


家主の居住空間である半地下の土間は静まり返っていた。
俺は自身に割り当てられたクロゼットの引き出しから真新しい包帯を一束取り出し全身に巻く。
壊死した皮膚が常時剥離し続けており、腐敗臭を放つ体液と共に歩いた後を汚すからである。
かつて家主はその事が不愉快で我慢ならないと俺に宣言したが、直後にチェルシーの膝蹴りによって股間へ致命的な打撃を浴びていた。
大変に、哀れに感じた事を覚えている。
墨で染めた一重を羽織り、忌まわしい唸り声を漏らし続ける捻じ曲がった木刀を帯に差して、冷え切ったベッドの横を抜け土間の出口へ向かった。


蛇島の大地を踏んだ瞬間、耳元で鋭い擦過音がした。
ピットへ落ちるように身を沈め、腰を半転させながら木刀を抜く。
大蛇の巨大な顎が、俺の喉笛のあった位置でガチンと音を立て、毒液を飛び散らせた。
鎌首の側面へ回る。
柄を握り、絞る。
地摺りの位置から切先を走らせた。
女の胴回りとさほど変わらぬ太さの白い腹、その真芯へ、木刀が突き刺さる。
節くれだった刀身から、腐臭を伴った瘴気が噴出した。
大蛇の体が雷に打たれたように硬直する。
俺は地を滑り、背面へ回り込んで、距離を取った。
急所を打たれ、身動きの取れぬ蛇。
怒りに満ちた呼気と共に、その牙から致死毒の飛沫を撒く。
何とかこちらへ振り向こうとしているようだが、その身は痙攣するばかり。
尾の先が苛立たしげに踊っている。
俺はゆっくりと正眼に構えた。


――縛りに勝る恐怖はない。


包帯の裏で念仏を唱える。

速やかに、蛇の命を絶った。


zudah at 21:15│ 06 Deadman's prayers