01 Shuttlecocks burns.

October 27, 2006

夢時間-1

たぶんユー辺りじゃないかと思われる森を歩いている。

左手に、甘みの強いワインを持っている。

割合いい天気だったのだが、少し曇ったかなと思った途端、前方の木立の合間から洪水が押し寄せてくる。
洪水と云っても、1フィート強程度のさざなみである。
だが森の中のことであり、何とも異様である。
どうやら海水ではなさそうに見える。

気味が悪いので、近くにあった大きめの岩に登る。
足元で、貧弱な波頭が次々に生まれては砕ける。
それを、ワインを飲みながら眺める。

頭上で鳥の鳴き声がする。
曇天を仰ぎ見ると、めらめらと燃え盛る鳶が、灰色のカンバスに黄色い円を描いている。

zudah at 23:17|Permalink

October 24, 2006

1-4 Shuttlecocks burns.

コブトス山は雨に煙っていた。

ぼんやりと輝く細い雨が、巨大な山稜を黒く、重く浮かび上がらせている。
どうやら昼間から降り続いていたらしく、まばらな木々も岩肌も、しとどに濡れそぼっていた。
寒気を覚え、垢臭いフードをかぶり直す。
眼前にぽっかりと口を開けた岩窟が、ハーピーの巣だ。
俺は背骨の芯を炙る性欲に突き動かされ、ふらふらとピンク酒場へ赴くかのような足取りで、穴へ潜った。


洞窟には、己の指先すら見えぬ漆黒の闇と、濃密な獣臭が充満していた。
遥か深部に、無数の気配。
妖艶に響く雌の声。
迷わず、闇に身を預ける。

ぱきりぽきりと、何かを踏み割りながら進む。
ハーピーの顔立ちを仔細改めて思い返すに、やや北方の民族に近い彫りの深さ、毛深さがあったように記憶している。
眉が繋がっているのは頂けないし、頬などに硬いうぶ毛が生え噴いているかも知れないが、それでもその辺の飯盛り女に比べれば、別格の美貌と云えるだろう。
少女のように大きな目と、豊かなまつ毛。
細く優雅な鼻。
常に艶かしい笑みを振りまく、肉厚の唇。
卵生だと云っていたな。
しかし乳房があるからには、仔に乳を与え育てている筈だ。
鳥乳とは、どんな味なのだろうか。
あの、たわわな双丘。
どのハーピーも、成鳥ならば俺の片手に余る巨きさを備えていた。
しかもその宝球を惜しげもなく白日の元に晒し、日々ブリタニアの空を回遊しているのだ。
これほどの獲物に、何故今まで食指を動かさなかったのか、自分でもわからない。
畜生どもめ、如何にしてくれよう。
自然と両腕が前に伸び、猫背は益々丸まって、口の端からは粘性の高い唾液がしたたり落ちる。
暗闇の向うに、うねうねと裸体をくねらせるハーピーどもの姿を幻視した。
おのれ、おのれ。
鳥め。
鳥公め。
こうか。これでどうだ。
これでもか。
これでもか。
うひ。うひひひ。
俺は、勃起していた。



突如凄まじい絶叫が響き渡った。
俺は両足を揃えて、ピョンと2インチほど飛び上がった。
曲がり角の先に明かりが見える。
俺は走った。

「上手い上手い。今のタイミングです」
「うん、いい感じいい感じ。上達が早いね」
「ホント? やったー!」

散乱する無数の死骸。
燃えている。
数十羽のハーピーが、燃え盛っている。
両の翼に炎を湛え、今まさに焼け死のうとしている鳥女の一羽と、目が合った。
真っ赤に充血した目。
美しく繋がった眉を苦痛に歪め、すがるように俺を見た。

「次はこれを使いなよ」
「わっ、MAFじゃん、いいの?」
「いいよいいよ、簡単に手に入るから」
「む、じゃあボクはこれをあげよう」
「わーっ、すごい! モンス狩るより、甘えたほうが儲かるかも」
「こりゃ参ったな、はははは」
「あははは」

炎が肩口を舐め始めた。
白い皮が焼けちぢれ、小さな玉状の血が無数に湧いて出る。
ぱちぱちと脂がはぜ、香ばしい匂いが漂ってくる。
食欲を刺激され、吐き気を覚えた。
鳥女は僅かに身じろぎしたが、最早地べたを這う力も残ってはいない。
まったく鳴き声を上げず、ひゅうひゅうと妙な息をしていた。
よく見れば、喉に何箇所も何箇所も、突き裂かれた痕。
自分の両膝が、小便を漏らした小僧のように戦慄いているのがわかる。
三人の狩人が俺に気づき、一瞬ハッとした表情を浮かべたが、鎧ひとつ着込むでもない浮浪者じみた姿を見て単なる冷やかしと判断したのか、また談笑を再開した。

「どうする? 奥に行く?」
「えー、大丈夫かなあ?」
「大丈夫大丈夫、今夜は二階まで行ってみよう」
「危なくなったら助けてね」
「OKOK、まかせて」
「最優先で助けるよ」
「わーい」

背後が透けて見える半透明の擬似馬二頭と、ラマ一頭が、俺の脇をゆっくり通り過ぎた。

「……あの人どうしたのかな。ちょっとヘンな臭いがする……」
「さあ? ルーターか何かじゃない?」
「ルーターって何?」
「あれはもう絶滅してるだろう」
「じゃあ浮浪者だな」
「ま、関係ない。先へ行こう」

炎に包まれたハーピーの視線に耐えかね、ぎくしゃくと脚を踏み出す。
三歩ほど近づいたところで、彼女が既に死んでいる事に気づいた。
俺は、その場に座りこんだ。



ファマスは、完全にスライムを見る目で俺を見た。
妙な形の帽子越しに、ぼりぼりと頭を掻く。

「……よくわからないな。お前は今まで、何十羽のハーピーを叩き殺して来た?」
「俺にもわからん。もう何もわからん」
「若い女に貢物をした事だって、数限りないだろう。同じ穴の狢だ。フン。何をいまさら」
「別にあの三人が羨ましかったとかじゃない」

いつの間にか鼻声になっていた。
先端の焦げた大きな羽根が、俺の手の中で震える。

「そもそも人外の雌をもてあそぼうと云う腹づもりからして異常だ。キチガイだ。結局、性欲の持って行き場を目の前の人ならぬ乳に求め、簡単に手に入ると思っていたソレをあっさり失い、不安になっただけだろう。いい歳をこいて情けない。腹を切れ」
「痛いのは厭だよ」
「お前が惨殺してきたハーピー達も、さぞや痛かった事だろうよ」
「うッ、うわぁぁぁああああああああ!! バーカ! バ、バ、バーーカ!!」

俺は絶叫し、得体の知れぬ薬品で溢れかえる砂岩の机を蹴り上げた。
足の指から妙な音がした。

「ギャッ」
「お前はもう駄目だ。救いようがない」
「俺は、俺はッ、ハ、ハ、ハーピーの乳を吸いたかっただけなんだ。甘えたかったんです! ソレの何が悪いんだ、あの乳を枕にして、眠りたかっただけなんだ!」
「これを見ながら、もう一度云ってみろ」

冷酷な口調で吐き捨てると、枯れ木のような手で手鏡を取り、俺の眼前にかざした。
小さな円形の銀板の向うで、ふためと見れぬご面相の狂人が、俺を見つめていた。


喉を裂かれた女のような悲鳴を上げて、背中から受身も取れずに倒れ込む。
ひらひらと羽根が舞い、血の気の引いた頬をやさしくくすぐった。
いい匂いがした。
女の匂いと、食い物の匂い。

俺はそのまま、可及的速やかに、失神をした。

zudah at 22:22|Permalink

1-3 Loitering

俺は立ち止まった。
目の前にあった蛇革ローブの裾を、ギュッと引っ張る。

「待て。思い出した。大変だ
「どうしました」

ザインが、不吉な蒼い輝きを放つムーンゲートに、片足突っ込んだまま振り返る。

「あげたお金、寄付せずに使っちゃったんですか。さっきアンクの前で何をしてたんです」
「いや、確かに賽銭を盗もうとはしたけど、寄付もした。そうじゃない」
「ここからフェルッカに渡らないとファムの家へは行けませんよ」
「莫迦、俺を認知症扱いするな。そうじゃない。俺の性欲がもう限界なんだ」
「おやおや」
「実はさっきウチで、猿の交尾を見た。興奮する。我慢ならん」
「もう人間としてのプライドも皆無ですな」
性的に昂ぶってるんだ。今、ファムのツラは見たくない」
「困りましたな」
「本当を云うと、お前と話をするのも苦痛だ。でも顔を隠しているのでとりあえずは大丈夫」
「あうさん、やっぱりこの機会に、ちょっとヒーラーハウスへ行った方が」
「あッ」
「どうしました」
「今、裸の女が木の上から手を振ってた」
「それはハーピーじゃないんですか」
「そんな事は知らない。ちょっと追いかけよう」
「あうさん、ハーピーは卵生だよ」
だからどうしたって云うんだ、お前もついて来い」
「おk」

ブリテインの森は、一歩迷い込めば広大な原生林。
樹上を渡る、裸女の姿を追い奥へ、奥へ。
とうに陽は沈み、辺りは森閑たる漆黒の闇。
遠目に揺れる、白い乳房だけを頼りに奥へ、奥へ。

「クソッ、あいつ本当にやらせる気はあるのか」
「ないと思うよ」
「ふざけやがって、おい、ハーピーがいっぱいいるダンジョンてどこだったっけ」
「コブトスですか」
「おk、そこへ行くぞ」

腰に下げた革袋を漁り、ルーンブックを取り出した。
次々にページをめくる。暗くてよく見えない。
慌てていたため、少し破れた。

「だめだ、入ってない。ちょっと、お前のルーンブック貸してくれ」
「おk。ああダメだよあうさん、置いて使ってください。持って飛ばれたら俺置いてけぼりになtt」

あ、そうか。
やべ、しまった。もう遅い。
首からぶら下げている、酒と手垢で染みだらけの小さな聖書が、純白に輝いた。






zudah at 20:05|Permalink

1-2 With a Snake.

「仮性包茎だったんですか」

夕日を背に、ブリテイン城の堀へ向かい長々と放尿をしている最中、頭の後ろから声をかけられた。
著しく動揺し小便も半ばにモノを仕舞おうとしたため、ズボンの左腿がビショビショになった。
尿が熱い。
火傷しそうだ。
俺は即座にわざとらしく苦笑し、「ハハハ。実は、ブリタニアン男性の七割は仮性包茎なんですよ。ご存知ありませんでしたか。ちなみに残りの二割が真性包茎、一割はカントン包茎です」とまくし立て、肩をすくめながら左手で顔を隠しつつ振り向いた。

沈みゆく逆光の中に、ザインが立っていた。
蛇革のフードを目深にかぶり、僅かに覗く口元には冷血動物の微笑を湛えている。

「……クソッ。何だよ、ビビらせやがって」
「あうさん、俺は包茎じゃないよ」
「うるさいだまれ」

上着のポケットから使い古しの包帯を取り出し、ズボンを拭いた。
信じ難い濃度のアルコール臭が立ち昇っている。

「こんな所で珍しい。何をしてるんですか」
「何だったっけ。買い物かな。酒が切れてるんだ。……いや違う、生の野郎の家へ行く途中だった」
「ほー。じゃあご一緒しましょう」
「おk」

俺はしばらくゴシゴシと左脚を擦っていたが、いくら拭いてもズブ濡れのズボンを誤魔化しきれるものではないと気づき、包茎じゃないと云う台詞を思い出して段々ムカついてきたので、黄色く湿った包帯をザインの鼻先へ突きつけた。

「のわッ」
「しゃぶれ」
「やめてー」

夕暮れのブリテインをそぞろ歩く冒険者達が、オークを見る時の目で俺を一瞥し、足早に通り過ぎていく。
一人の女と目が合った。
パッと見、病み上がりのサッキュバスのように淫靡で、端整な顔立ち。
ありえないほど薄気味悪い色の肌。
よく見れば、両耳がビンビンに立っていた。
何だこいつは。

「おい、この女人間じゃないぞ」

俺は女を凝視したままザインに云った。

「え、ああ。在ブリだよ。最近多いんです」
「在ブリ?」
「いわゆるエルフですな」
「本当に人間じゃないのか」

俺は驚愕した。
一歩近寄り、まじまじと顔を見つめる。
女は素早く三歩下がると、華麗に四十五度のターンを決め、颯爽と歩き始めた。
俺は後を追った。

おまえ、人間じゃないのか?」
「……」
「なあ、おまえ、人間じゃないのか?」
「あうさん、だからコノ人はエルフだよ」
「なあ、おまえ、その腰から下げてる妙な飾りは何だ?」
「あうさん、ソレはタリスマンだよ」

一時期に比べると、ブリテインも静かになったものだ。
あちらこちらに小さく固まりさわさわと囁き合う冒険者達の中で、俺の声だけがうつろに、城下街に響き渡る。
夕闇が迫る中、女は唐突に立ち止まった。
衝突しそうになった俺が面食らっていると、彼女は背中を向けたままリコールを唱えた。
イラッとしたので、両手の指先をマムシに曲げ、背後から素早く突き出して、両乳房を鷲掴みにする。
だが、豊かな半球をしっかりホールドしたにも関わらず、何の柔らか味も感じられないままに、女は消滅した。

クソッ。忘れてた。
ここはトランメルだった。

「ふざけやがって。おい、ファムの家までゲートを出してくれ」
「俺出せないよ」
「何だと」
「あうさん、また寄付金が切れてるのかい。千円あげるからチャージしてきなよ」
「うるさいだまれ。お前さっきから何様のつもりだ」

俺はザインの鼻先に、小便とアルコールの臭いが染み付いた手のひらを突き出した。

zudah at 03:45|Permalink

October 23, 2006

1-1 Ruins

目眩がひどい。

西日が頬を焼いている。
どのくらい眠っていたのかわからない。
一晩か、二晩か。もっとか。

あまりにも長時間妙な体勢で眠っていたため、首が固まり、寝ボケ眼で部屋を見渡すのにもかなりの労力を要した。
見飽きた廃屋、半地下の土間。
壁掛けランタンの油はとうに燃え尽き、薄暗くじっとりとした室内。
元は物置か、厩舎だったのだろう。
今では酒と黴と腐敗したマフィンの臭いが染み付いている。
家主の起床を察知したネズミの一団が、行列を作って壁の穴へ逃げ込んで行く。
そうだ、今の家主は俺だ。
勘違いするな。俺はホームレスじゃない。
ちゃんと税金も払ってるんだ。

気つけに一杯やろうとソファに横になったまま手を伸ばし、地面に無造作に転がる未開封のエール瓶を一本取って、ラベルを剥がした。
瞬間、獰猛な殺意を隠そうともしない刺激臭が、鼻腔を直撃した。
眼球の毛細管が何本か切れ、鋭い痛みが走る。
涙をボロボロ流しながら中身を確認すれば、それは目にも鮮やかな明緑色の致死毒液。
俺は声なき罵声を上げると、瓶を握り締めたままソファから転げ落ち、開けっ放しの窓の外にひろがる荒れた密林に向かって全力で投げ捨てた。

「……クゥ〜ッ、クソッたれ! うんこ! 聖なるうんこ!」

間違いなくアイツの仕業だ。
悪戯のつもりなのか殺す気マンマンなのかわからないが、とにかく、こんな最凶度の毒薬を調合できる奴など他に心当たりがない。
復讐してやる。
何かこっぴどい仕返しが必要だ。
アイツの家へ行って、布団の上にウンコをしてやろうか。
否、引き出しの中に小便をしてやってもいい。

空えずきが止まらず、しばらく薄汚い土間に這いつくばっていると、頭上、上階の廊下あたりから情けない鳴き声が聞こえてきた。
またモンバットが紛れ込んだのか。
しかもこの声は一羽じゃない。
人様の家で勝手に縄張り争いでもしているのか、アオーアオーと喧しい。
畜生めが。

俺は土間一面に散乱する塵芥を引っかき回し、底から一振りの処刑斧を発掘すると、それを杖代わりにして裸足のまま階段へ向かった。
そうだ、あのモンバットの死骸をケーキ箱に詰めて、送りつけてやろう。
いや待て、アイツの事だから普通に喜んで喰ってしまうかもしれない。
やっぱりウンコを送りつけよう。
よし決まった。


階段を登りきり、足音を忍ばせつつ廊下を覗くと、目の前でモンバットが交尾していた。
ブッシュブッシュと濁った泡が、石畳の上に飛び散っている。

俺は一気に欲情し、猿どもの退治も忘れ、街へ飛び出した。

zudah at 22:07|Permalink