02 The cold

January 07, 2007

夢時間-2

花を浮かべた風呂のような匂い。

乳房を枕に眠っているらしく、あまりの多幸感に何もかもがどうでもいい。
背を女の腹に預けた側臥位になっており、ずっとこのままで居たい。

女の体の体積は、俺の倍近い。
身長ではなく体全体のスケールが桁違い。
各パーツは総じて太い。
当然顔もデカい。
どこか恍惚とした表情を浮かべながら俺を眺める半眼の瞳はどこか懐かしい。
大気に蕩けていきそうな灰色を帯びた長い長い金髪が、たまらなく美しい。
背を向けているのに何故顔貌が判るのかはわからない。
どこかで会ったような既視感はあるのだが、記憶にない。

乳は湯を入れた水枕のように温かく、このデカい体に比しても尚、随分と巨きい。
折角なので乳首を吸いたい。
体勢を変えようとしたが、身じろぎひとつとれない。
布団にくるまれているのかと思ったら、女のもう一方の乳房が俺を包んで離さない。
上半身がすっぽりと覆われており、凄まじく重い。

せめて乳輪を見たい。
きっと、広大な乳曇がどこまでも広がっているに違いない。
だが動けない。
悔しい。
本当に悔しい。


頭上から、女のクスクス笑い。

zudah at 01:50|Permalink

January 06, 2007

2-4 Suck me, please.

女が入ってきた。

顔はわからない。
人相を特定できない。
随分と心配そうな表情をしている。
申し訳なく思い、安心させようと頬をゆるめて見せた。

女は濃密な花の匂いを伴っていた。
トリンシックローズだ。
右腕にさげた籠の中には花束が突っ込まれているのだろうか。
それとも、女の髪の匂いだろうか。
もしそうだとしたら興奮する。
異常な量の香水を使用しているその行為に興奮を覚える。
あまりにも非常識だからだ。

「俺は今から死ぬかもわからない。どうせなら、おまえにしゃぶられながら死にたい。よろしく頼む」

女は何ごとかをよもよもと呟いた。
何を云っているのかは認識できない。
こちらに向かって、ゆっくりと近づいてくる。






再び失神したらしい。

気が付くと真新しい清潔な寝巻きに着替えさせられ、枕元には摩り下ろした林檎の入った鉢が置いてあった。
見覚えのないバスケットが足元にあり、薬くさい水溶液と当面の食料品が入っていた。
部屋に花が飾られている様子はなかった。

女が誰だったのかはわからない。
しゃぶってもらえたのかどうかも、覚えていない。



現在、熱病は快方へと向かっている。

zudah at 21:36|Permalink

November 28, 2006

2-3 Samurai Zombie

ふ、と死臭がした。
少々眠っていたらしく、薄目を開けると体の上に黴臭い着物が四・五枚掛けられている。
薄気味悪い量の長葱が、部屋の隅に小山を作っていた。

炉には火が入っていて、鍋がかけられている。
こちらに背中を向けて、誰かが立っている。

「……莫迦は風邪を引かないと云うが、風邪にかからない訳じゃない。感染している事に気づかないんだ」
「……重い。黴臭い。どけてくれ、死ぬ」
「凍えるよりマシだろう。贅沢を云うな」

どろどろとうねるおどろ髪が、こちらを向いた。
裸の上半身も顔面も、薄汚れた包帯でぐるぐる巻きになっている。
僅かに見える地肌は、死体の肌。
同居人の鬼火だ。

「……俺はもう駄目かもわからない。この塔はお前にくれてやるよ」
「ゴミ捨て場を押し付けられても困る」
「何だと、おまえ、間借りさせてもらってる分際で……、畜生、なら今までの家賃を払って出て行け」
「悪いが、何を云ってるのか聞こえない。もう喋るな」

どうやら、俺の声は無声音になっているようだ。

「クソッたれのゾンビ野郎。お前俺を殺す気だろう。死人にして使役するつもりなんだろう。断じて、断じて云いなりにはならんぞ。誰がお前なんかに。長葱なんか敷き詰めやがって、このキチガイ侍。畜生。うんこ。神様」
「長葱を置いたのは俺じゃない。民間信仰の治療法に長葱を使う事はあるが、効果は期待薄だ」

鬼火は鍋の湯から徳利を出し、卵を割り込んだり粉を混ぜたりして軽く振ると、こちらに突き出した。

「……何をするつもりだ。おまえ、本気で殺すつもりか」
「精がつく。呑め」
「ミルクセーキの作り方を知らんのか。それは酒じゃないか。何のつもりなんだ」
「黙って呑めと云うのに」
「うんこ、たすけて、神様」

ノックの音がした。
カオリが思い直して戻ってきてくれたのかも知れない。

「カオリ、たすけて、殺される、鬼火が俺を殺す」
「ここに置いておくから、呑め。いいな」

鬼火は、逃げるように階段を上って、姿を消した。
冷風と共に、ドアが開いた。

zudah at 21:09|Permalink

November 06, 2006

2-2 Welsh onion

薄汚れたローブを顎まで被り、ソファの上で猫状に丸まった。
鼻水が滝のように流れ、呼吸がままならない。
ココココココと床から妙な音がするので、何かと思い覗き込むと、ソファの足が小刻みに振動していた。
すわアースクウェイク攻撃かと飛び起きようとしたがゼンマイの緩んだゴーレムのようにスットロい動きにしかならず、しかも背もたれを掴んだ自分の手が 何かの冗談のように震えているのに気づいた。
何だこれ。

やがて、顎や、眼球まで痙攣を始めた。
視界が揺さぶられ、歪み、回転する。
慌てて目を閉じた。
これはいかん。
間違いなく俺はビョーキだ。
しぬかもわからない。


一瞬、部屋に吹き込む風が強まった。
扉の閉まる音がした。
誰か入って来ている。
隠れているが、間違いない。
こわい。

ぺたり、と頬に冷たいものが当たる。
刃物かと思ったら、長葱だった
うわウザい何だコレと動揺する間もなく、ソファの上が長葱に埋め尽くされ、俺は献花に埋もれるホトケのような状態にされてしまった。
やめてくれ、どけてくれとうわごとのように繰り返したが、遠くの方でクスクス笑いが聞こえるだけだった。
部屋を見ると、恐ろしい量の葱が敷き詰められており、しかも更に増殖の真っ最中で、ちょうど散乱する衣料品や塵芥を苗床とし生え出したかに見える。
これは地獄だ。
ネギ地獄だ。
意味が分からない
誰か助けてくれ。
誰か。


妖精じみた異様な忍び笑いが、執拗に、鼓膜にまとわり付いた。

zudah at 00:46|Permalink

October 27, 2006

2-1 The cold

寒気がひどい。

大きなくしゃみを一つして、ソファに身を起こした。
鼻をすする。
風邪をひいたのかも知れない。
隙間風が矢鱈に冷たいと思ったら、全裸だった。
いつの間に脱いだのか、記憶にない。
そもそもいつ眠ったのかも覚えていない。


首筋に悪寒を覚えつつ、土間一面に散乱するゴミの中から比較的垢染みの少ない服ないしは比較的臭いの薄い服を探し出そうと四つん這いで這い回っている最中、戸口がノックされると同時に勢いよく開いて、カオリが入ってきた。

「アウツさんアウツさん、あっ……」
「あっ……」

鹿マスクの角がビクンと震え、青いマントで口元を隠すが早いか、静かに且つ速やかに扉を閉める。
俺は体毛を剃られた山羊のような状態でしばらく硬直し、やがて、丁度右手に細長い赤フラスコを握っていたのに気づき、慌てて放り出すとドアに突進し、蹴り開けた。

「ちょ、まっ、違う違う!!」

野生のワニが一匹、のそのそと歩いている。
周囲を見渡したが、殺伐とした風情の蛇島西岸に、既に人の気配はなかった。
冷たさを増す秋風をくまなく浴び、全身に鳥肌が走った。
陰嚢が胡桃の如く縮み上がり、鼻水は2フィート近く垂れ下がる。
俺は不自然な誤魔化し笑いを浮かべたまま、廃屋の玄関に立ち尽くした。


つまり、俺が本格的に風邪をひいたのも、無理はないと云う話だ。

zudah at 23:52|Permalink