今日の『人民日報』で中国新政治が読める(since 2014.3.8)

現代中国の政治、外交を勉強する一研究者が今日の『人民日報』をこんな風に読んでみました

2015年01月

2015年1月30日(その2) 「紅頭文件」による権力集中と自由裁量権はいまだ健在

 10面に白之羽「紅頭文件がいかに『黒幕』に変わるか」という論説が掲載されている。
 「紅頭文件」というのは、「法律用語」ではない。「各級政府機関が通達する紅い文字の表題と紅い印章のついた文書の俗称である。行政権力の象徴として社会公衆にとって、紅頭文件は権威であり、規範であり、執行すべき準則である」と説明されている。中国でよく見る公式文書である。
 ー「この30年、わが国の経済発展は偉大な成果を上げた。しかし発展の過程で暴露された政府の越権行為問題は依然としてよい解決方法がない」
 ー「一部の地方政府は行政権力の集中と自由裁量権が大きすぎ、腐敗抑制の困難と効率の低下を生み出した。さらに一部の地方役人が権力を濫用し、一部の特殊な地方企業を守ることで、その他の企業の生存空間が極めて大きな圧力を受けた。このようなことはたくさんある」
 ー「政府の不在も同様に明らかである。一部の地方政府は国民収入の再分配で自らの役割を立派に演じていない。教育、医療の資源分配が均等でない、病気を軽んじる、学校に行かせないなどの問題には依然としてよい解決方法がない。同時に一部の地方の生態環境悪化、食品安全の危険が民衆の不満を引き起こしている」

 党・政府機関の権限は法律もさることながら、法律ではないこの紅頭文件で裏付けられている。依法治国を掲げるからには、この紅頭文件の位置づけは改めて考慮されなければならない。この論説は、そこまで明確には言及していないが、紅頭文件に基づき党・政府機関の権力集中と自由裁量権が大きいことを批判している。
 他方で、再分配政策においては政府が役割を果たしていないため、いまだに格差や不平等の問題が解決されないことを指摘する。紅頭文件で付与された権限や裁量権は再分配を促すためのものではなく、私欲のためであり、「一部の特殊な地方企業」のような強者を保護するためのものであることを非難する。
 こうした指摘は目新しいものではない。今も改善されていない、いまだに取り組むべき課題であることを確認した論説であるが、こうした論説が掲載されること自体に、共産党の法治の取り組みは簡単ではないことが分かる。
 

2015年1月30日 習近平が軍の会議で忠誠を求める

 1月29日、習近平が全軍外事工作会議・第16回武官工作会議代表と会見した。范長龍、許其亮ら軍幹部が勢揃いした。
  ー「皆さんが政治意識を強化し、思想上、政治上、行動上から党中央と高度な一致を保つことを希望する。決して揺らぐことなく党の軍事外交に対する絶対的指導を堅持し、党中央、中央軍事委の決定、指示を断固貫徹し、政治上から問題を観察、思考、処理することを堅持し、終始正確な政治方向を確定することを保つ」
 ー「皆さんが自身の建設を強化し、軍事外交のよい伝統、よい作風の発揚に大いに力を注ぎ、紀律を守り、決まりを重視し、思想の防御戦をしっかりと構築し、総合的な素質を高め、自覚的に腐敗を拒絶し変化を防ぎ、たえず工作能力と工作水準を高めることを希望する」

 軍の外事活動に携わる軍人を集めた会議で習近平が何をしゃべったのかに注目した。実は外交関連の発言はほとんど報じられていない。むしろ多いのは習近平に忠誠を誓うことを求めたことである。全軍政治工作会議での習近平の重要講話がベースにあって、外事活動に携わる軍人にも周知徹底させる目的もあるだろう。また紀律、腐敗への言及もあり、海外逃亡を戒めることもあったかもしれない。軍に限らず、習近平への忠誠を求める会議がここしばらく見られる。

 5面には伍正華「重ねて拳を振り上げ腐敗に反対し、改革強軍の決心をはっきり示す」という論説が掲載されている。伍はおそらく解放軍報の記者か評論員。
 ー「腐敗に反対し、重い拳を振り上げ、徐才厚、谷俊山などの一部の軍内の巨額の汚職を厳しく取り締まり、示したことは正義であり、樹立したことは方向であり、守ったことは栄誉であり、かき立てたことはプラスエネルギーである」
 「事実が証明するように、作風を改め、腐敗に反対し、軍風をさらに正し、軍心をさらに奮起させ、軍隊をさらに有能にすることで、人民大衆の信任と支持を得ることができる」
 ー「2015年は全軍政治工作会議の精神を全面的に貫徹する年であり、国防と軍隊改革深化の実質的スタート年である」
 ー「重い拳を振り上げ腐敗に反対することの根本目的は、『虎を退治し、ハエを退治する』ことで既得権益の枠組みを突破し、改革のために障害を取り払い、道路を作り橋をかけることである」

 伍はさらに徐才厚、谷俊山の名前を挙げ、 軍における反腐敗闘争をさらに進めることを強調している。特に2015年を「全軍政治工作会議の精神を全面的に貫徹する年」としており、習近平が軍内での指導体制をさらに強化し、そのために反腐敗闘争をテコにするということであろう。

2015年1月29日 中規委派遣の反腐敗巡視組への疑念の存在

 5面に評論員の李zhengによる「巡視、制度創新を利用して反腐敗の鋭い剣を鋳造する」と題する文章が掲載されている。以前より関心をもっていた中央紀律検査委員会と監察部が中央部門や地方などに派遣し、汚職を巡視(パトロール)する「巡視組」についての論説なので注目した。関心をもっていたのは、こんな機関がどのくらい真剣に取り締まるのか、たかが形式ではないかと懐疑的に見ているからである。論説の中で次の記述に注目した。
 ー「巡視が体現する『破』と『立』の弁証法は、反腐敗闘争の全体的考え方である」
 ー「鋭い剣で高リスク、高い圧力の反腐敗のほか、巡視の背後にはさらに重要な話、つまり制度建設の話がある。巡視組長が『鉄帽子』から『一回に一度の授権』に変わり、巡視組と巡視される単位に存在しうる『利益同盟』という難題を打破した。巡視組に対する監督と問責の力を高め、『誰が監督者を監督するのか』という問題を解決した」
 ー「それぞれの制度創新が体制の積弊、現実の痛点に対応し、有益な事業を興して弊害を除く体制メカニズム改革の中から巡視制度の問題は克服、威力を得て、解決できた。巡視が訪れたところでは、人びとはもう『本気かどうか』を疑うことはなく、結果公布を待ち、『反腐敗が新たな問題を発見したか、新たな成果を得たか』を見る」
 ー「現在の反腐敗闘争は段階的に顕著な成果は上げている。また反腐敗と腐敗の膠着状態にあるという圧力に直面し、進まず後退し、多年の努力を最後のわずかなことで失敗に終わらせてしまうリスクもある。長期的に見て、いかに腐敗の頑強性、反復性を克服し、腐敗の逆襲を防ぐか?最も根本的なことは『権力を制度のカゴに閉じ込める』ことである」を鋳造する」

  国務院も行政改革などの政策をちゃんと実施しているかをパトロールする巡視組も各地に派遣している。ちょっとしたブームである。しかし、こうした巡視組のような機関を各地に派遣するのはこれが初めてではない。
 1998年ごろだったか、当時の朱鎔基総理が国有企業改革を進めるために監視グループを中央から各地に派遣したことがあった。今はもうないし、当時大きく扱われたが、その後の国有企業改革の進展具合を思えば、何の効果があったのだろうかと思うし、けっこう大物がその役を担ったのだが、それは1998年の国務院機構改革で
多くの中央官庁が削減され、その幹部の受け皿として作ったのがその監視グループだったと思っている。
 そのため、まだ今回の巡視組の構成員を分析してはいないが、1998年と同じ「ニオイ」がしなくもないと思っているので、関心をもっている。
 さて、論説から分かることは、巡視化の活動について、派遣されたところでは、私が心配した巡視組と巡視される単位の間の癒着、巡視組の本気度が、実際に存在するということである。
 2つめは、反腐敗闘争がとにかく取り締まるという段階から「制度化」という段階へと進めようとしていることである。その制度化が巡視組の活動であり、規律検査体制改革である。
 しかしこれらの制度化、「権力をカゴに閉じ込める」などというのは共産党内の話である。真の制度化は党外の第三者の監督にある。しかしそれには言及しないのだから、これらの制度が形式に終わる可能性が高い。そして第三者の監督を入れたくないので、ことさらに巡視組の存在を強調し、話をすり替えよう、真の制度化から目を逸らさせようとしているにすぎない。
 
 

2015年1月28日 この1年改革の全面的深化を直接指導した習近平

 新華社が27日に配信した「習近平同志を総書記とする党中央の改革深化元年の工作述評」が掲載された。2013年11月の18期3中全会で採択された「改革の全面的深化の決定」に基づき、習近平政権がこの1年行ってきたことを宣伝する記事である。8回にわたり開催された中央改革全面深化指導小組の会議の内容、6分野の改革の進展状況などが盛り込まれており、便利な記事である。
 「改革の全面的深化」 についてはこれまで関心をもっており、中央改革全面深化指導小組会議の内容やその運営についてもちょっと書いたこともある。憶測ではいろんなことが言われているが、この記事はその根拠となる有用な記事だ。
 (1)「改革の全面的深化」は習近平の直接指導によって進められていること、そのための「司令部」が中央改革全面深化指導小組だということが明言されている。
 ー「この一年、習近平総書記の直接指導の下、中央改革全面深化指導小組が総目標をめぐって文章の構想を練り、大局を見て、大勢を観察し、大事を謀り、終始しっかりと正確な方向を理解し、改革の全面的深化改革の航程を操縦し、率いた」
 (2)指導小組会議では、審議され採択される案件と、審議だけされ採択は中央政治局会議に委ねられる案件があるのだが、後者は「重大な問題」の案件であることを明らかにしている。
 ー「指導小組が定期的に重大改革方案を審議し、方案の実行可能性、操作可能性、存在する問題のリスクの評価を深め、政治的ゴールラインと社会安定のゴールラインなどを明確にする。重大な問題は中央政治局常務委員会会議、中央政治局会議の審議を仰ぎ、重大改革の十分な論証と科学的な決定を確保する」
 格上の中央政治局会議で採択されるのは指導小組で採択できなかったからかと思ったので、「重大な問題」の扱いが異なることは分かった。ただし、この記事からは、そもそも「重大な問題」を扱うプロセスが確定しているのか、それとも指導小組で採択できない案件が結果的に「重大な問題」となって中央政治局会議などに委ねられるのか。この点は依然として分からない。
 (3)「改革の全面的深化」の目的が「国家ガバナンス体系とガバナンス能力の近代化」にあるということが確認されており、一党支配の正当性の調達問題と密接に関係していることが分かる。
 ー「2回の中央委員会全体会議、二大主題、2つの決定が習近平同志を総書記とする党中央の治国理政の総体戦略は時間軸の上で順序を展開し、姉妹編を形成し、大鵬の両翼の如く、戦車の両輪の如く、共同で小康社会の全面的構築完成という目標の実現を推進し、共同で国家ガバナンス体系とガバナンス能力の近代化を推進する」
 改革の全面的深化はいろんな意味で習近平のリーダーシップを見る上で重要なバロメーターになる 。指導小組の運営状況もその1つである。それを知る上でこの記事は有用である。

2015年1月13日(その2) 反腐敗闘争への反対論を紹介、批判

 5面に岳小喬「反腐敗を推進し、『三つの間違った議論』を論破する」と題する論説が掲載されている。
  「三つの間違った議論」とは以下のように説明されている。
  (1)反腐敗が度を超している論=処理される汚職幹部が非常に多い
  (2)反腐敗が自分の顔を潰す論=党のイメージに泥を塗る
  (3)反腐敗無用論=「官職がなければ汚職をしない」といっても何の役にも立たない
 この3つの議論について以下のように論評、批判している。 
  (1)反腐敗が度を超している論
   ―「一部の幹部は『官吏にとって容易ではない』とため息をつく。『官吏が安心して暮らせない』と思いすらしている。これは当然へりくつである」
   ―「周りの一般人に自由に聞いてみると、『官吏が安心して暮らせない』と思う人が何人いるだろうか?厳しく己を律し、私心を捨てて公のために尽くすことが領導幹部の常態であるべきで、口を管理し、手を管理することは本来幹部に対する過酷な要求ではない」
  ―「『虎』を取り締まり狼を取り締まったので幹部は審査された。この意味は、反腐敗は手加減をし、ほどほどが肝心であるということである。しかしこれはさらにデタラメである」
  (2)反腐敗が自分の顔を潰す論
  ―「組織の内部にあって全体を害する多数の人をしっかり握ることで人びとは腐敗現象の深刻さに失望していると考えるか、暴露される多くの罪状が人民の党に対する信任に影響を与えると考えている。このようなロジックには道理があるように見えて、考えてみると耐えられない」
  ―「わが党のイメージに何の影響もなく、人民群衆の固い支持と支持を勝ち取った。警戒すべきは『反腐敗が党のイメージに泥を塗った」という名目で反腐敗工作の深い推進を妨害することである」
  (3)反腐敗無用論
  ―「一部をもって全体を評価して『官職がなければ汚職をしない』と断定し、反腐敗は断固としているが氷山の一角を取り除いたにすぎない。反腐敗は一時しのぎにはなっても根本的な解決にはならない。これらの見方は客観的ではない。党風クリーン政治建設の主体的責任を実現し、巡視の全カバーを実現し、規律検査体制改革を推進する・・・これらの戦略規劃、制度配置で、権力を制度のカゴに閉じ込め、あえて汚職をしない懲戒メカニズム、汚職できない防止メカニズム、汚職しにくい保障メカニズムを形成しなければならない」

 最近の『人民日報』の論説は面白い。そしてこの岳の論説は私自身が待ちに待ったものだ。
 習近平が強力に推し進める反腐敗闘争。当然反発が大きいことは推測できたが、その証拠がなかったので、憶測の域を出ることがなかった。しかし、『人民日報』にその存在を認める論説が出たこと、しかも3つの議論として紹介されたことで、これを根拠に反発があると言い切ることができる。
 反発の根拠は想定どおりの3つだった。 もちろん、習近平、王岐山はこれらに立ち向かっていく。そのための論説である。

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